あの赤字続きのアパレル大手は浮上できるか TSIの「プロ経営者」がV字回復計画を披露

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M&A戦略の新たなアドバイザーとなるのが、7月14日に資本・業務提携を発表した日本政策投資銀行だ。7月末付で政投銀に自社株を割り当て、55億円を調達。政投銀は7月末に5.82%を保有する筆頭株主になった。

同行は、来年3月末までに出資比率10%未満の範囲内でTSIHD株を追加取得する方針。齋藤社長は中期計画で売上高150億円、営業利益15億円の規模の優良企業を買収したいとしており、政投銀のネットワークを最大限に生かす考えだ。

「キャス・キッドソン」事業も譲渡

TSIが展開する「マーガレット・ハウエル」

TSIHDは発足以来、毎年10億円を超す営業赤字を計上するなど不振が続き、ブランド数や店舗数の削減を進めてきた。2014年度には初の営業黒字を達成したが、売上高1808億円に対して営業利益はわずか9億円にとどまった。

同社は安定した高収益企業に変身するため、さらなる大規模リストラを予定している。8月末で傘下企業が運営する11ブランドを廃止し、250店以上を閉鎖。希望退職者も募集中だ。

各ブランドの収益性を徹底してあぶり出し、継続が難しいと判断した婦人服の「スタイルミー」や「ボディドレッシング」などを廃止することにした。また、人気ブランド「キャス・キッドソン」事業も英国本社の申し出に応じて8月末で終了し、同社の日本法人に譲渡する。

一方、採算が見込めるブランドへの投資集中化を進めており、ナノ・ユニバース(前期売上高243億円)、「ナチュラルビューティーベーシック」(同158億円)、マーガレット・ハウエル(同126億円)、「ローズバッド」(同108億円)、パーリーゲイツ(同85億円)など、売上高上位のブランドは比較的堅調に推移している。販路別で見ると、かつての主力だった百貨店向けブランドが不振のため、ファッションビルや駅ビルなど成長性のある非百貨店向けブランドに大きく舵を切っている構図だ。

齋藤社長は京都大学大学院出身のエンジニアで、米エクソンモービルの系列企業や仏ロレアルなどを渡り歩いた48歳。米ハーバード大学に留学し、MBAも取得している。旧サンエーの創業一族である三宅正彦会長が後継者を探している中で、「40代で勢いのある人ということで、ヘッドハントされて(TSIHDに)入ることになった」(齋藤社長)。

リストラの一方で、「従業員には結果が出れば報いる」とも話す齋藤社長。ただ、今後の成長施策の1つとして掲げた「粗利率改善」については、競合との値引きセール合戦にアパレル業界全体が苦しんでいる。齋藤社長も「プロパー(正規価格販売)比率を上げていくしかない。チャレンジングではある」と認める。今回の大ナタで高収益企業に生まれ変わることができるのか。プロ経営者の手腕が試される。

冨岡 耕 東洋経済 記者

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とみおか こう / Ko Tomioka

重電・電機業界担当。早稲田大学理工学部卒。全国紙の新聞記者を経て東洋経済新報社入社。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などにも所属し、現在は編集局報道部。直近はトヨタを中心に自動車業界を担当していた。

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