ミセス「コロンブス」騒動における隠れた「勝者」 「古い価値観」はいつから「古い」とされるのか

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だからこそ、若者たちは驚いた。自分たちの時代をうたっているはずの人気ミュージシャンが、まさか、旧時代の人々がもつ“誤った昔の価値観”でMVを作るなんて。そのショックは計り知れず、かくも大きな炎上案件となってしまったのである。

かつて許されていたものが、明日にも「古い考え方」となり、社会からNoをつきつけられる。そんなゲーム構造のなかで、私たちは生きていくことが求められる。それが科学を土台とする近代という社会の基本駆動原理だからであり、そして今が科学の加速期だからである。

「コロンブス」騒動の隠れた勝者

我々が「コロンブス」の炎上から学ぶとすれば、それは、窮屈なようでも、変わりゆく常識の理解をアップデートしていかねばならない、ということだ。誰しも、もはや他人事ではない。いつなんどき、自分の考えが古くなってしまっており、炎上しないとも限らない。私たちは常に理解をアップデートし続けていかねばならない。

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そして最後に。一見すると、誰も得をしなかったようなこの「コロンブス」騒動。だが、もしこの騒動で何らかの利を得た存在があるとすれば、それは誰だろうかと考えてみよう。今回の騒動を喜んだ人がいるとすれば、「コロンブスは新大陸を発見した偉人」ではなく、「コロンブスは虐殺者である」という認識を固めたいと願っていた人々であろう。先住民族の名誉のためか、歴史学的な見地からの正義感からか、はたまた自らの利益のためか。

かつてはマイノリティの側にあり、コロンブスの歴史認識をめぐるゲームチェンジを虎視眈々と狙っていた人は、この騒動に満足げに頷いていたに違いない。近代というゲームの勝者は、常に、その構造を打破するゲームチェンジャーなのである。

中川 功一 経営学者、やさしいビジネスラボ代表取締役

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なかがわ こういち / Koichi Nakagawa

1982年生まれ。2004年東京大学経済学部卒業。08年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。大阪大学大学院経済学研究科准教授などを経て独立。現在、株式会社やさしいビジネスラボ代表取締役、オンライン経営スクール「やさしいビジネススクール」学長。専門は経営戦略、イノベーション・マネジメント。「アカデミーの力を社会に」を使命とし、経営スクールを軸に、研修・講演、コンサルティング、書籍や内外のジャーナルへの執筆など、多方面にわたって経営知識の研究・普及に尽力している。YouTubeチャンネル「中川先生のやさしいビジネス研究」では、経営学の基本講義とともに、最新の時事解説のコンテンツを配信。

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