ミセス「コロンブス」騒動における隠れた「勝者」 「古い価値観」はいつから「古い」とされるのか

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かつて80年代には、原子力が日本の未来のエネルギーと明るく信じられていたことを覚えている人は少ないだろう。原子力は、化石燃料に頼らない、地球環境を破壊しない、夢のエネルギーだったのである。だが、現代日本では、そのように考える人はもはや少数派だろう。

科学の進歩によって常識が覆った事例など、枚挙に暇がない。100年前であれば、ノルマを達成できたかどうかで賃金水準を決定することが、労働者の「科学的な管理法」であると信じられていた。現代ではそれはサボタージュの主要因とみなされている。外科手術の前に手を洗うことが常識となったのは1870年頃のことである。企業が長期繁栄するためには、策略を巡らせるよりも競争力を高めることだ――が常識となったのも、実はようやく2000年頃のことである。

私たちの生きる近代以降の社会では、科学の進歩とともに新しい常識が生み出されては、長い年月のなかで更新されていくことになる。別の見方をすれば、私たちの社会を構成している諸原理――たとえば、資本主義だとか、国民国家、組織の階層構造、大量生産、労使関係といったもの――はすべて、科学的な疑いの目がかけられ続け、新しい常識へと再構築される可能性にさらされている。いかなる過去の常識に根差して活動することも、その常識が覆るリスクを抱え込むことになる。

今の価値観では昔の価値観は「誤った」ものに思う

そして現代では、この科学的常識の変化のスピードが、加速しようとしている。現代は、第4次産業革命と言われる、産業の基盤技術と、社会構造の変化が同時進行している時代である。生成AIやロボットの登場は、自然科学のみならず、人文・社会科学分野にも、決して小さくない影響を与えている。新しい技術的環境に合わせ、新しい社会制度や文化が必要とされているからである。

Mrs. Green AppleがMVで扱った「コロンブス」と「猿」は、まさにこの十数年で、常識がアップデートされたテーマであった。コロンブスはもはや虐殺者とみるべき存在であり、アメリカ大陸で紡がれてきた文明の破壊者である。猿は、有色人種を差別する意図を含むとみられやすい微妙なモティーフであり、おいそれと使ってはいけない、というのが一般的理解になろうとしている。

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