任天堂が「異端の経営者」を抜擢した納得の理由 日本企業と北米企業との「文化のミスマッチ」

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任天堂のロゴ
(撮影:田所千代美)
「任天堂の海外販売戦略における部分をつまびらかにした、おそらく初めての本でしょう」。5月に刊行した『崖っぷちだったアメリカ任天堂を復活させた男』について、そう語るのはエンタメ社会学者の中山淳雄氏だ。
なぜ、任天堂という会社で著者のレジー・フィサメィ氏が抜擢され受け入れられたのか。自身も日本コンテンツの海外展開を手掛けてきた中山氏に、日本企業と北米企業との違いを踏まえつつ話を聞いた。

任天堂の度量

本書ほど、ビジネスとプロモーションだけを描いたゲーム会社本はめずらしいですね。2008年の「Wii」販売におけるプライシングの交渉シーン、岩田聡さんとの別れなど、興味深く読みました。任天堂のものづくりについてはいくつかあっても、海外販売戦略をつまびらかにした、おそらく初めての本でしょう

『崖っぷちだったアメリカ任天堂を復活させた男』書影
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ゲーム会社の海外支社は、本社の開発者の意見が絶対で、アメリカもヨーロッパのオフィスも、ヒエラルキーの下にあります。そういう中で、レジー・フィサメィさんは、日本の任天堂本社に対して強気で交渉していきます。

「E3」(世界最大のビデオゲーム産業の見本市)でのプレゼン動画を見ましたが、彼は気が強くて競争的。まさに当時は古臭く消極的だった任天堂にまったく似つかわしくない「立ちはだかる敵を叩きのめすのが私の性分です」という有名なフレーズどおりの印象を受けました。

10社近くもジョブホッピングして1カ所には落ち着かなかった彼がなんと16年間もの間アメリカ任天堂を託され、トップの職責を全うした。その任天堂の許容性の高さと会社文化を変えようとした試み自体が素晴らしく描かれた本だと思います。岩田聡さんは、「レジーとミスター・イワタ」と呼び合うパイプラインをずっと残していました。普通なら、間に英語の流暢な海外事業部長なども入れるものですが、本社トップが自ら現地を見に行き、レジーさんに直接昇進通知を手渡したりしているのです。

任天堂と岩田さんがレジーさんをどう扱ってきたか、その度量の大きさこそが“異人種”であったレジーさんが生かされて任天堂の海外部門が大きくなった背景にある、ということを読み込めた本です。

日本企業と北米企業とでは、文化のミスマッチが大きな壁になりがちです。主に、意思決定の違いですね。日本本社の10人の役員で海外戦略を決定するという時、その10人で誰1人海外在住経験がないという組織がけっこうあるのです。

そういうときに、レジーさんのような海外支社長が現れると、「レジーっていう、空気の読めない奴がいるぞ」となるわけですが、そもそも海外には、空気を読む人間なんていません。日本人として日本だけで暮らしてきた感覚では、理解の外にいるタイプだと思います。

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