「PK戦の勝敗」を分ける"たった8%"の残酷な差 超一流プロも逃れられない「認知バイアス」の罠
なんとPKで上段を狙ったのは、集計した443キックのなかで、たったの151本。割合にすると34%です。上段に蹴るのは3人に1人で、多くの選手は下段を狙っていることになります。
成功率を高めるという観点でみれば、上段に蹴るのが合理的だと考えられますが、実際はそうなっていません。勝つために最適な振る舞いができていないといえます。
ではどうして、大半の選手が成功率の低い下段を狙うのでしょうか?
PK成功率のデータはワールドカップを中心に一流選手が集まる大会から集計したため、選手のスキル不足ということは考えづらいです。となると、考えられるのは技術ではなくメンタルの問題です。
PKには(数理統計的に)非合理的な意思決定をしてしまう罠が含まれているのではないか。特に、「損失回避バイアス」というバイアスが影響していると考えられます。
「外したくない」という損失回避バイアス
損失回避バイアスは行動経済学で扱うバイアスのなかでも特に有名なバイアスです。みなさんも聞いたことがあるかもしれません。
「人間は得をすることよりも、損をすることを評価してしまうため、損をしない可能性が高い選択肢を選ぶ」というものです。
では、PKではどのような損失回避バイアスがみられるのでしょうか。ここで、冒頭で取り上げた駒野やバッジョのPKを思い出してみてください。
彼らはゴール上段を目指してキックしており、枠外に外してしまいました。PKは枠外に蹴ってしまった途端、失敗(=損失)が確定します。逆に、勢いを殺したシュートでも、枠内に蹴れば決まる可能性があるのです。
実際、上段を狙った場合に枠外に飛ぶ確率は17%、つまり6回に1回は外してしまいます。ゴール上段に蹴るためには勢いよくキックする必要があり、一流選手でも確実に枠内入れることは難しいのでしょう。
一方、下段に蹴る場合、枠外に飛ぶ確率は5%です。若干勢いを殺してコントロールしたシュートであれば確実に枠内を狙うことができます。
人間は少しでも損をしない可能性を選ぶ傾向があるので、失敗が確定する枠外に蹴らない(=損をしない)選択肢が魅力的に映ります。その結果、3分の2の選手が、外すリスクの小さい下段に蹴るという状況になると考えられるのです。
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