「PK戦の勝敗」を分ける"たった8%"の残酷な差 超一流プロも逃れられない「認知バイアス」の罠

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PKの成功率は下段より上段のほうが高くても、外すリスクを恐れて実際は下段を狙う選手が多い。このような状況こそが、損失回避バイアスによって生まれる非合理的な意思決定です。

一流のスポーツ選手であっても、認知バイアスという悪魔からなかなか逃れられないことがわかります。

下段は「セーブされる可能性」が高いが

「上段は外すリスクが高いのに、決定率が高い」のはどうしてでしょうか?

ここでカギを握るのが「セーブ率」です。

(出所:『行動経済学が勝敗を支配する 世界的アスリートも“つい”やってしまう不合理な選択』より)

「PKを外す確率」と「PKをセーブされる確率」を示した上の表を見てください。上段は「外す確率」が高く、「セーブされる確率」が低いことがわかります。

上段の左右のセーブされる確率は数%とめったにセーブされることはなく、上段中央の場合はなんと過去にセーブされたことは一度もありません。上段に勢いよく蹴れば、ゴールキーパーも捕れません。

次に下段に蹴った場合にセーブされる確率についても注目してみましょう。中央に蹴った場合は30%、左右に蹴った場合は20%近くがセーブされています。これは上段に比べるとかなり大きな数字になっています。

つまり、下段は外す確率が低いものの、セーブされる確率が高いために分が悪い選択肢ということになります。

PKがセーブされるかどうかは、ゴールキーパーの読みにかかっているため、キッカーはセーブされるリスクを正しく見積もることが難しいと考えられます。そのため、セーブされるリスクよりも、外すリスクを重要視してしまうのでしょう。

クロアチアとのPK戦を分析

ここまでの分析から「上段は外す確率もあるが、下段に蹴ってセーブされる確率のほうが高い。そのため、外すリスク(明らかな損失)を受け入れたうえで、上段に蹴るのがおすすめである」ことがわかりました。

では、本当に上段を狙うのが有利なのか、2022年カタール・ワールドカップの日本対クロアチア戦のPKを題材に確認していきましょう。

日本が1-3で敗れたPK 戦ですが、各選手の蹴った場所と実際の結果は以下のようになっています。

日本代表は、浅野のみが上段に蹴り、失敗した3名は全員が下段にゴロ性のシュートを蹴りセーブされる結果となりました。

(出所:『行動経済学が勝敗を支配する 世界的アスリートも“つい”やってしまう不合理な選択』より)

一方のクロアチア代表は1人目・2人目が上段に蹴り、成功の期待値も日本代表より高くなっています。

次ページ1人目、2人目の選手の理想的なシュート
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