「積極財政派」「財政再建派」提言に見る希望と絶望 「PB黒字化目標」に代わる新たな財政政策の指標

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財政政策検討本部の提言のポイントは、プライマリーバランス黒字化目標に代わる新たな財政政策の指標を提案しているところにある。

それは、「『ネットの資金需要』(企業貯蓄と財政収支の対GDP比)をマイナス5%程度に誘導し、維持する」という指標である。

これは、簡単に言えば、次のような考え方に基づく。

まず、企業貯蓄がプラスであるということは、投資不足を意味する。したがって、経済が成長するためには、企業貯蓄はマイナスでなければならない。

次に、「『民間部門の収支』+『政府部門の収支』+『海外部門の収支』=0」であるから、海外部門の収支を無視すれば、「『民間部門の黒字』=『政府部門の赤字』」が成り立つ。

要するに、民間が貯蓄超過の時は財政赤字になるということであり、民間が投資超過の時は財政黒字になるということだ。

「失われた30年」に起きた逆説的現象

もし、民間が貯蓄超過にもかかわらず、財政赤字を強引に削減したとしたら、何が起きるか。それは、国民所得の減少を通じて、民間貯蓄が減少することになる。その結果、GDPの縮小を通じて、対GDP比政府債務残高はかえって悪化することにもなりかねない。

つまり、財政赤字の削減努力によって、財政健全化(対GDP比政府債務残高の低下)から遠ざかるという逆説的な現象が起き得るのだ。

そして、この現象こそが、「失われた30年」に起きたことだった。

1998年以降、日本経済における「ネットの資金需要」はマイナスどころか、ほぼ一貫してプラスであり続けた。それにもかかわらず、日本政府は、プライマリーバランス黒字化目標の堅持など、財政支出の抑制に固執し続けた。そのことが、長期停滞のみならず、財政悪化をももたらしたのである。

したがって、企業貯蓄がプラスの間は、財政赤字は拡大してよい、いやむしろ、拡大すべきだということになる。

そして、財政赤字を拡大してよいのならば、需要を創出し、企業投資を促すための政府支出の拡大や減税が可能となる。もちろん、防災、社会保障、環境、教育、科学技術、少子化対策、デジタル化、安全保障などへの支出を拡大することもできる。こうした積極財政により、短期のみならず、中長期的にも持続する経済成長が可能となる。

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