沈む日本、いま必要なのは「団塊ジュニアの反抗」だ 「物価高で定額減税」の矛盾を無視していいのか

✎ 1〜 ✎ 9 ✎ 10 ✎ 11 ✎ 最新
拡大
縮小

いまの日本はどうか。目先の物価高に心を奪われ、そのために論理的に矛盾した政策が公然と行われようとしている。バラマキが当然視され、インフレに歯止めがかからなくなったとき、私たちは先進国から脱落することになるだろう。

過去の30年を見ればわかるように、私はかつてのような経済成長を実現するのは難しいと思っている。

他の先進国並みの成長を実現する方法を考えるのは当たり前だ。だが、本当の核心は、成長に依存せずとも暮らしていけるよう、財政の生活保障機能を強めていくことではないだろうか。

私たちは医療や介護、教育費の負担におびえ、なけなしのお金を蓄えて、将来不安に備えようとしている。そのような社会で消費が伸びるわけがないし、わずかな減税など焼け石に水でしかない。

日々の暮らしに追われる私たちが<脱・成長>を実現するのは大変だ。だが、生活保障を強め、<脱・成長依存>への努力を重ねれば、将来不安から人びとが解放され、経済成長もいまより高い軌道を描くことになる。

もちろん、新たな財政システムを議論する以上、財源問題から目をそらすべきでないことはいうまでもない。

団塊ジュニア世代に課せられた使命

私たち団塊ジュニア世代は、時代に嫌われた被害者だった。だが、被害者だからといって、働き盛りである私たちが事態を放置してしまえば、今度は歴史の加害者になってしまう。目前の火事に気づき、それを放置することは、罪を犯すに等しい。

この連載の記事はこちらから

私たち世代はさまざまな苦しみに耐えてきた。だが、その結果として、生活防衛に走ってしまい、少子高齢化を加速させてしまった。

そんな私たちだからこそ、いまの将来不安の根元がどこにあるのかをよく知っている。だからこそ、私たちは、日本社会の未来を本気で構想する責任を負っているのではないか。

団塊ジュニア世代が次世代に責任転嫁することなく、きびしい現実のなかで立ちあがれるかどうか。そこにこの国の不沈がかかっていると私は思う。

井手 英策 慶應義塾大学経済学部教授

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

いで えいさく / Eisaku Ide

1972年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。日本銀行金融研究所、東北学院大学、横浜国立大学を経て、現在、慶應義塾大学経済学部教授。専門は財政社会学。総務省、全国知事会、全国市長会、日本医師会、連合総研等の各種委員のほか、小田原市生活保護行政のあり方検討会座長、朝日新聞論壇委員、毎日新聞時論フォーラム委員なども歴任。著書に『幸福の増税論 財政はだれのために』(岩波新書)、『いまこそ税と社会保障の話をしよう!』『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)ほか多数。2015年大佛次郎論壇賞、2016年慶應義塾賞を受賞。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【動物研究家】パンク町田に密着し、知られざる一面に迫る
【動物研究家】パンク町田に密着し、知られざる一面に迫る
作家・角田光代と考える、激動の時代に「物語」が果たす役割
作家・角田光代と考える、激動の時代に「物語」が果たす役割
作家・角田光代と考える、『源氏物語』が現代人に語りかけるもの
作家・角田光代と考える、『源氏物語』が現代人に語りかけるもの
広告収入減に株主の圧力増大、テレビ局が直面する生存競争
広告収入減に株主の圧力増大、テレビ局が直面する生存競争
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT