それがハッキリとあらわれたのが自殺者数だった。1998年に自殺者の数が8000人以上も増え、その後、14年にわたって3万人を超えることとなった。
自殺者だけではない。選挙、デモ、世論が政治に与える影響について5年ごとに尋ねたNHK放送文化研究所の調査を見てみると、1998年に政治への影響力のなさを感じる人が一気に増え、以後、低位で安定するようになる。
そう、日本社会はゆるやかに衰退したのではない。1990年代の後半に明らかな転換が起きていた。だが、主要先進国の地位にあぐらをかき、歴史的な変化に気づくことなく、いつかなんとかなるだろうと考え、私たちはいたずらに時を消費してきたのだ。
まるで平成の貧乏物語
この鈍感さは、平成の31年間で、決定的な変化をもたらした。
日本の1人当たりGDPは、平成元年の世界4位から平成31年の26位へと順位を下げた。企業時価総額トップ50社を見ても日本企業が32社を占めていたのに、平成の終わりにはたった1社になった(現在ではトップ100を見ても1社しかない。それはトヨタだが、そのトヨタが認証不正を行ったことは象徴的である)。
男性労働者の収入減をおぎなうために、女性の非正規労働者が増えた。共稼ぎ世帯数は約6割増え、専業主婦世帯の2倍をこえるようになった。それなのに、勤労者世帯の実収入のピークは1997(平成9)年だった。
世帯収入300万円未満の世帯が全体の31%、400万円未満が全体の45%を占めるようになったが、これは、平成元年とほぼ同じ割合だ。ちなみに、平成の終わりには2人以上世帯の3割、単身世帯の5割が貯蓄なしと答えている。
まるで平成の貧乏物語だ。いや、もっと現実を的確に語るならば、日本は、先進国と発展途上国の境界線に立たされるようになった。
日本のGDP総額が7割の人口しかいないドイツに追い抜かれた、という報道が世間を騒がせた。為替の動向次第では、1人当たりのGDPも韓国や台湾に追い越されるのも時間の問題である。
私がとりわけ深刻だと思うのは、途上国と共通する社会的な信頼度の低さだ。
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