じつは所得水準と他者への信頼度には、強い相関関係がある。日本はOECD加盟国のなかで主要先進国とその他の国の境界に位置しており、所得と信頼度で見ると、リトアニア、エストニアと同じグループにいる。
もちろん私たちは状況を静観していたわけではない。政府も必死になって経済を成長させようとしてきた。
思い出してほしい。小さな政府と規制緩和を訴えた新自由主義、財政金融政策の機動的な出動をうたったアベノミクス、そして分配による成長をめざした新しい資本主義、いずれも経済成長を実現するための政策パッケージだった。
だが、冷静に見てみると、政府を小さくすれば成長する、いや政府を大きくしたほうが成長する、いやいや経済政策ではなくて分配政策が大事だ……成長を説明するロジックは混乱を重ねてきた。
論理で説明がつかない、結果が出せないのなら、残された方法は1つしかない。国民にダイレクトにお金をバラまき、力ずくで消費を増やすことだ。
大胆な財政出動を正当化するMMTがあちこちで語られるようになり、コロナ以降、現金給付が当たり前のように行われるようになった。
そしていま、物価を下げなければならないこの局面で、政府は、所得税の減税という「景気刺激策」を行おうとしている。
三重苦のイギリスで、首相が国民に語りかけたこと
1976年のことだ。当時のイギリスは、オイルショックの後遺症である不況、国際収支の赤字、そして物価高の三重苦に苦しめられていたが、ときの首相J・キャラハンは次のように国民に語りかけた。
「私たちはかつて、減税と政府支出の拡大によって不況を脱し、雇用を増やせると考えていた。包み隠さずに話そう。そのような選択肢はもはや存在しないのだ」
キャラハンは、インフレ下の景気刺激策はありえない、思いきって新しい政策を考えようではないか、そう国民に呼びかけた。そして、のちの「サッチャー革命」に続く政策へと舵を切り、1990年代の高成長時代へのきっかけを作った。
私自身は、彼らの政策を正しいものだとは思っていない。だが、当時の政治家は、自分たちなりに現実を直視し、あるべき政策の姿を懸命に考えていた。
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