「この年は、描きたいときに絵を描きに行って、授業が終わったらすぐに帰るようにした」と語るように、絵への向き合い方も変わったそうです。
「これ以上うまくなる必要はないと思ったので、楽しむことを意識して、予備校に通いました。家に飾りたくなるとか、人にあげたくなるとか、『今自分が描きたいもの』を大切にして描いていましたね」
そうした日々の中で、落ちた理由も「客観性が抜けていた」のが要因だと感じるようになったそうです。
「私はずっと先生や友達など、周囲の人に頼っていました。だから、人がいいと思う絵を描くことにこだわりすぎて、目の前の絵に向き合えてなかったと思います。この年は人に頼らず、自分で考えるようにしたので、素直に自分が好きだと思える絵を描くようになれたと思います」
「楽しむこと」を意識したこの1年は、成績こそ大きな変化はなかったものの、人の目や評価を気にせず、ストレスなく絵を描けるようになっていたそうです。
3浪目の挑戦、本番で心が折れる
こうして迎えたこの年の藝大受験。
「1次試験で一度も描いたことがない石膏像が出てもうダメだと思ったんです。試験の翌日に予備校に行けなくなるくらい心が折れていて、自分では怖くて1次通過の結果を見ることができませんでした。
そうしたら、スマホに友達から大量にLINEが来ていて。それで合格を知りました。興奮しましたね。2次試験でも興奮状態は続いて『去年見せられなかった自分の作品を、教授陣に見てもらえる』という前向きな気持ちで臨めました」
「これで落ちたら、もう受からないというくらいまで課題を仕上げて帰った」と語る2次試験。とはいえ、その結果を見るまでは半泣きで、不安に押しつぶされそうだったそうです。
「合格発表の日は、お母さんと一緒に家にいたのですが、発表の10時までずっと布団の中で、半泣きになって、体育座りしていたんです。自信がなかったわけではないのですが、何回も落ちてるし、自分の番号がない怖さを知っているので……。
そしたら、友達から電話がかかってきて。『何だろう?』って思って出たら、『受かってたよ!』って言ってくれたんです。大号泣しました。それからは自分の番号を見てないのに、一気に予備校の先生や友達から、連絡が来て、その連絡に返信し続けていました。ようやく自分で番号を確認しようとしたら、11時になっていました(笑)」
こうしてえずみさんは、激しくも、充実した3浪の生活を終えました。
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