国民経済計算のデータを用いてULCとUPを計算すると、図表2の通りだ。
ここには、ULCとして2つのデータを示してある。1つは、GDP統計による名目雇用者報酬を実質GDPで割ったものだ。第2は、雇用者報酬のうち賃金・報酬をGDPで割ったものだ。どちらの指標で見ても、2015年頃からゆるやかに上昇していたが、最近では、ほぼ一定だ。したがって、最近の賃上げは、ほぼ生産性上昇に添ったものと言える。
UPは、2015年以降ゆるやかに低下していたが、最近では、若干回復した。
コストプッシュ型のスタグフレーションに陥る危険
2024年の春闘で高い賃上げ率が実現したことから、日本でもやっと賃金が上昇し始めたと歓迎する意見が多い。しかし、すでに述べたように、どんな賃上げでも望ましいというわけではない。重要なのは、賃上げが生産性の上昇によって実現されるかどうかだ。健全な賃金上昇のためには、賃金上昇と実質GDPの増加が同時に進行するようなものでなければならない。
2022年以降の輸入物価の上昇は極めて急激なものであったために、これを価格に転嫁できるかどうかに、当初は疑問が持たれた。しかし、実際にはそれが実現した。
また、2023年には輸入価格が下落して企業の原価が下落したにもかかわらず、企業はこれを売り上げ価格の下落に還元せず、利益を増やした。ヨーロッパ諸国では、物価高騰によって企業利益が増加していることから「強欲インフレ」だとする批判がある。日本の場合の企業利益増加も、「強欲型」と言ってもいいものだ。
企業はこの実績を見て、賃金上昇も価格に転嫁できると考えたのではないだろうか?
日本銀行はこのような過程を「賃金と物価の好循環」と呼んで、望ましいものと捉えている。
また、政府も、中小零細企業が価格転嫁によって賃上げを行うことを進めようとしている。これらは、賃金が上がるという意味では望ましい現象なのだが、実際には消費者が負担する賃上げであり、その結果、実質GDPの成長率が落ち、スタンクレレーションに陥るという大きな問題を含んでいる。
これを放置すれば、賃金と物価の悪循環によってコストプッシュのインフレが加速し、スタグフレーションに陥る危険がある。日本はいま、重大な岐路に立っていると考えざるをえない。
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