株価はピークの8割減、優等生「エムスリー」に異変 時価総額はコロナ禍の7兆円から一時1兆円割れ

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これまでは、国内の9割超の医師をカバーするm3.comで広く情報発信すれば「広告効果は最強」(業界関係者)とみられてきた。しかし、治療の難易度が高い希少疾患やがんの薬を確実な処方へとつなげてもらうためには、その分野で実績がある専門医に焦点を絞ったアプローチや患者の個別ニーズの把握など、より踏み込んだ支援が必要となる。

屋台骨の停滞が長引く現状は、エムスリーも危惧している。谷村格社長は4月の決算説明会で「(コロナでの)一時的な需要で非常に忙しくなり、プロダクトの本質的な改善がややおろそかになっていた」と語った。

今後は製薬マーケティング支援の再成長に向けて、顧客企業の生産性を向上させる新サービスの開発や、同社が保有するデータを活用したコンサル型の提案を強化するという。

m3.com上のビッグデータや、電子カルテなど実際の医療現場から得られる情報を基にしたデータから、AI技術を使って特定の疾患領域でのニーズなどを予測分析するような支援策も拡大させる。

見定めづらい「次の柱」

会社側は今2025年3月期について、増収増益を見込んでいるものの、製薬マーケティング支援が回復するタイミングに不透明感が残るとして、売上高・営業利益ともに幅を持たせた計画を公表した。

稼ぎ頭の見通しがつかない以上、次の柱の育成も急務だ。エムスリーは中長期的な成長の柱として、予防医療領域での取り組みや、予約・問診アプリや電子カルテなど医療現場のDXを推進する事業の拡大を掲げる。

この点について、UBS証券の葭原アナリストは「製薬マーケティング支援とそれ以外の事業では、今のところ利益規模に大きな差がある。海外もアメリカの治験事業などで停滞している状況の中、数年先に他の事業で利益を2ケタ成長させるようなシナリオは描きづらい」と分析する。

カギを握るのはM&Aだろう。エムスリーは毎年、比較的小粒な医療関連の会社を国内外で10件程度買収している。安価で買った会社を自社のエコシステムに取り込んで収益性を高め、事業領域や海外の展開エリアを広げる手法を得意としてきた。早期に次の柱を打ち立てるには、従来と異なる規模感での大型買収も焦点となりそうだ。

新サービスやM&Aを通じて、コロナが明けた医療業界でも、革命児の存在感を再び打ち出せるのか。その手腕が今こそ試されている。

真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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