3冊の絵本の原画展やトークイベントを開催してきた東京・青山の老舗書店「山陽堂書店」では、就職活動中の学生や仕事帰りの女性などがこれらの絵本を手に取っているという。イベント時に会場に置かれたギャラリーノートには「考えさせられる内容」「自分は大丈夫か、ハッとさせられる言葉があった」「いろいろな話を聞いても、何が本当なのか自分で見極められるようになりたい」などの感想が記されている。
店主の遠山秀子さんは「ふらっと立ち寄ってふと絵本を手にした人が、食い入るように読んでいる。今の時代にこそ必要な本なのだと思う」と話す。
テレビ局を退社した女性の”ひとり出版社”
「小さい書房」は安永則子さん(43)がひとりで切り盛りしている”ひとり出版社”だ。
「めいっぱい働かないと気が済まない性格」と自らを評する安永さんは、TBSで記者として、昼夜を問わず休日も返上して仕事に打ち込んできた。ところが出産を経て、子どもの成長を見守りながらせめて夕食は一緒に食べたいと思うようになる。
めいっぱい働きながら子どもと夕食をともにするにはどうするか。あれこれ考えるうちに、会社という枠から飛び出すしかないんじゃないか、と思うようになった。そんなときに目にしたのが「ひとり出版社が増えている」という記事。「これだ!」と思った。熟考の末、会社を辞めて起業することにした。「小さい書房」を立ち上げたのは2013年2月のことだ。
もともと本が大好きだったわけではなかったという。だが、育休中に子どもと一緒に図書館に通い、日々、絵本を読み聞かせる中で、それまで抱いていた絵本への印象が大きく変わった。
「想像以上に深い世界が広がっている。子どもだけじゃもったいない。大人がひとりで読んでもいいんじゃないか」。大人向けの絵本を看板に据えることにした。
まずは名刺を作った。そして、3冊出版するまでは立ち止まらないと決めた。ツテもなく資金も限られている中で、「何が大切かは、自分で決める」というテーマを共有できる作家を探した。
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