かねてから作風が気になっていた絵本作家の風木一人(かぜき・かずひと)さんのトークイベントに出向き、その場で思いを記した手紙を渡した。絵は、グラフィックデザイナーの長友啓典さんとブックデザイナーの松昭教さんが担当。とことんやりとりを重ね、1年以上かけて完成したのが1作目となった『青のない国』。帯の言葉「何が大切かは、自分で決める。」には、この作品にかかわったメンバーの思いが詰まっている。
山陽堂書店の遠山さんは、小さい書房の本の放つメッセージに心を奪われたという。「3冊の本はどれも、読んだ後にわが身を振り返ってしまう。安永さんの築く”チーム”には、本を通じて何を伝えたいのか、確固たる思いがあるのでしょう。明確な思いのある本は読む人の心を離しません」。
仕事は性格や生き方そのもの
組織にいると、仕事はおおむね向こうから「やってくる」が、組織を出るとそうはいかない。目の前に用意された「仕事」がなくて、何をすればいいんだろうと考えている時間がいちばん辛いと思い知らされた。だから、著者から執筆の承諾を得ると「うれしい」と思うと同時に「これで当面は仕事ができる」という安堵も感じる。
どこまでが仕事なのか、その線引きも難しい。営業や在庫管理、本の発送、経理など、あらゆる作業をすべて自分でやらなければならない。本作りのヒントがいつどこにあるかわからないので、アンテナは四六時中張り巡らせている。週末もなかなか休日モードに切り替えられず、自宅で子どもに「カリカリしてるね」と指摘されてしまうこともある。
「小さい書房」の絵本は、小学校での読み聞かせに使われたり、高校の図書館に置かれたり、大学での教材に用いられたりしている。社会人からの感想も多く寄せられる。「出版不況ではあるけれど、本は見向きもされないわけではないんだと感じています」。
テレビは家族みんなで同じ番組を見ることもあるが、本は「小学校低学年向き」などと対象年齢が記されているものも多い。でも安永さんは「その人、その年齢なりの受け止め方があるのだから年齢で読者を限定したくない」と話す。
4冊目の出版に向けて仕込み中の今、あらためて「本を作るのはおもしろい」と感じている。「報道という仕事とは畑違いのようでいながら、テーマがあり人に伝えるという点では似ている。新しいことを始めたというより、これまでの仕事や個人的な経験すべてを映し出している感じです。仕事は私の性格や生き方そのもので、たとえ職種が違っても同じような働き方をしていくのだと思います」。
今後は、大人向けの絵本を軸に据えつつ、ノンフィクションを手掛けたいという気持ちを抱くようになった。やはり、実際に起きていることを追いかけて表現し、伝えたい。自分がおもしろいと思うかどうか、それがすべての物差しであり原動力。社会の”おもしろいこと”をキャッチするそのアンテナをしまうことはしばらくなさそうだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら