上司の気難しい表情すら管理する社会の結末 Z世代の不快を消す「デオドラント化」の限界

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不快なものを視界から消し去りたい。それを誰かに(金を払う代わりに)代行してほしい。かつては「ワガママ」と処断されたこんな欲望を、現代では誰か――ビジネス提供者――が解決してくれるようになっている。

歴史学者・作家の與那覇潤は、こうした様相を「社会のデオドラント化」と表現する。巧い表現だ。デオドラント、つまり無臭を求める社会。クサいから除菌する。汚物は消毒だ! 滅菌せよ! というわけだ。

でも、現実的に菌が消えることなどない。生き物は生きている限り無臭にはならない。得られるのは刹那的な「消えた感」だけだ。仮に上司がニコニコしだしたとしても、それはただハラスメント認定に怯えて、あるいはコンサルタントに指導されてそうしているだけの演技であって、部下のあなたを慮ったものではないかもしれない。

そして何より、上司がニコニコしていたら仕事が楽しくなるわけでも、捗るわけでもなかろう。「意味もなくニコニコしていて気持ち悪い。裏がある」とか言われてしまったら、どうすればいいというのか。でも、不快かどうかだけで排除を決定するなら、そういう理屈すら通用してしまう。

Z世代からみた暗澹たる社会

現代社会は、上司の表情すら管理しようとする。あるZ世代の学生は言っていた。

「ファストフード店でアルバイトしていたときに、『理想の笑顔』を練習させられて。この顔で接客しなさい、お客様が不快にならないように、と。ちょっとついていけなくて、早期で辞めてしまいました」

このエピソードに対して、ファストフード店の肩をもつ方は少ないと思う。ただ対象が上司の表情になった途端に、上司はそもそも存在自体がハラスメントなんだよ……といった論調になってしまう不思議がある。

なんか上司の味方みたいで不快です。老害ですか?って言われそうな文章だけども、最後に「Z世代」との関係について論じておきたい。

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