上司の気難しい表情すら管理する社会の結末 Z世代の不快を消す「デオドラント化」の限界

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Z世代とよばれる若者が入社した会社の様相は、既に述べたようなものに変化しつつある。保護者会を開催する企業が出現したり(拙著参照、就活に親御さんが関わる事例はどんどん増えており今後も加速するだろう)、Z世代は本人らの意思にかかわらず、周りから管理と監視を強化されている。社会がまず、子離れできていないのだ。

「配属ガチャ」みたいな話にしても、そういう表現を用いて狂乱しているのはどちらかといえばオトナのほうで、Z世代はなぜか当事者から外れて傍観している印象すらある。上司の表情にしても、Z世代側からメンタルの不調を訴える前にコンサルが介入して、上司の表情がコントロールされていく、という構図が成立してしまっている。自ら何か動く前に、周囲がすっかり除菌されて無臭になっていく、まさにデオドラント化社会だ。

不快な上司を排除するデオドラント化の結末

筆者が一番懸念することを、締めくくりに述べておく。

会った日から、なんだかニコニコしている上司たち。ある日たまたま不機嫌な顔をしていた上司は、干されてどこかに行ってしまった。事態を把握して、ストレスのない職場の理由を知ったZ世代。除菌されて不快じゃなくなってほっとすると同時に、気付くのである。

いずれ自分も、除菌されるんじゃないか、と。

昇進人事は、会社組織の背骨ともいえる重要な機能だ。しかし若手社員が昇進を望まない傾向が強まって久しいといわれる。これは非常にまずいことだ。でも、理解はできる。こんな社会で、上司になったら表情まで管理される社会で、若手社員が管理職になりたがるわけがないだろう。

だからみなリスクを避けて、目立たないように、「ふつう」に生きていければいいか、と考えるようになる。「周りを見張ってちょっと上」をめざすのだ。それははたして、賢明な戦略だろうか。

不快な上司を糾弾し排除しようとする前に、デオドラント化の結末を想像してみる価値はある。

舟津 昌平 経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師

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ふなつ しょうへい / Shohei Funatsu

1989年奈良県生まれ。2012年京都大学法学部卒業、14年京都大学大学院経営管理教育部修了、19年京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都大学大学院経済学研究科特定助教、京都産業大学経営学部准教授などを経て、23年10月より現職。著書に『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房、2023年度日本ベンチャー学会清成忠男賞書籍部門受賞)、『組織変革論』(中央経済社)などがある。

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