入学式取材で見えた「東大新入生」のリアルな変化 「将来像これから」「政治の話は引いてしまう」

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こうした多様化の流れを象徴するのが、東大生の“官僚離れ”だろう。

人事院によると、2023年度の東大生の国家公務員総合職(キャリア)試験合格者は367人で、500人を超えていた10年前と比べ、約3割減少。記者が話を聞いた十数人の新入生のうち、官僚に興味を持っていると話した学生も1人にとどまった。

入学式では、東京大学校友会の宗岡正二会長(元新日鉄住金会長)が祝辞を述べる中で、「政治に関心を持つこと」の重要性に触れていた。「国の政治や政治家のレベルは、その国の国民の知性や倫理観が反映されると言われている。政治から逃避し、批判だけすることは許されない。これから皆さんには、当事者として関心を持ち、民主主義の力強い担い手となることを期待したい」。

ただ、宗岡氏が語った期待とは裏腹に、政治に関心を持つ学生は、少ない印象を受けた。

理科二類の男子学生は「政治は僕も含め興味がない人がほとんど。熱量を持って語る人をみると、引いてしまう」と語った。文科二類の男子学生も、「正直、政治は『わからない』の一言」と戸惑いを見せた。

政策以前に、政治への関心が薄れていれば、官僚離れが進むのは自然な流れだろう。

将来の道はベンチャーや起業も選択肢に

最近の東大生の就職先としては、官僚に代わる形で、外資系のコンサルや投資銀行を志望する学生が多いとされる。将来を強く意識する上級生の見方はどうか。学部生の入学式の後、大学院向けの式に出席するために入れ替わるように現れた院生たちに、最近の実情をたずねた。

理系の男子院生は、「就職先として最も人気なのはコンサルだ。1番の理由は給料の高さ。官僚は激務の割に薄給なので人気はない。同じぐらいの仕事量でコンサルだともっとお金がもらえる。入学時は官僚を目指す人も多いが、みんな流されるようにコンサルに変わっていく」と明かす。

一方で、別の理系の男子院生は「コンサルは人気過剰になり、成熟期に入ってきているとも感じる」と説明する。「いきなりベンチャーに入ったり、起業したりといったケースもあり、これからは小規模でも株を持ちながら、経営に携われる仕事に次の波が来るのではないか」(同)。

この学生は、海外での就職か、外資系の投資銀行やコンサルを考えている一方、将来的には起業も選択肢に入れているという。

新興企業育成に力を入れる政府は、スタートアップへの投資額を2027年度に10兆円規模に拡大する目標を掲げ、東大でもAI(人工知能)分野などを中心に起業が目立つ。時代の流れに敏感な東大生からは、将来の道を決めるうえで、複線化が進む日本社会の行く末を冷静に見極めようとする姿勢も感じた。

社会が多様化し、選択肢が広がる中で、日本を代表する新入生の秀才たちは、これからどんな道を進むのか。変化に揺れる東大生の意識の一端も感じさせられた、春の日の晴れ舞台だった。

茶山 瞭 東洋経済 記者

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ちゃやま りょう / Ryo Chayama

1990年生まれ、大阪府高槻市出身。京都大学文学部を卒業後、読売新聞の記者として岐阜支局や東京経済部に在籍。司法や調査報道のほか、民間企業や中央官庁を担当した。2024年1月に東洋経済に入社し、通信業界とITベンダー業界を中心に取材。メディア、都市といったテーマにも関心がある。趣味は、読書、散歩、旅行。学生時代は、理論社会学や哲学・思想を学んだ。

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