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認知症の親を看取った2人の「後悔と幸せな最期」 稲垣えみ子×中村在宅医の「老いを生きる戦略」

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  • 稲垣 えみ子 フリーランサー
  • 中村 明澄 向日葵クリニック院長 在宅医療専門医 緩和医療専門医 家庭医療専門医
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稲垣えみ子(以下、稲垣):それはちょっと難しい問題かもしれないですね。私の父は現在87歳で、ひとり暮らしをしていますけど、私が体感しているシンプルな暮らしから得られる幸せというのは、父はまったく関心がない(笑)。でも、それは当たり前なんですよね。

うちの親の世代は戦後の何もない時代に頑張ってモノを獲得していった世代だから、捨てることはすごく苦手なんですよ。誰でもその人にはその人の人生があって、その中で価値観を作っていく。何が正解と思うかは人それぞれ。いくら自分がいいと思うことでも、そこを人に押し付けるのは違う気がします。

実は、そう思うようになったきっかけがあって。8年前に亡くなった母とのことなんですけど。

中村:どんなことがあったか、知りたいです。

母との思い出を語る稲垣さん(写真:今井康一撮影)

マジックで大きく「捨てるな!」って

稲垣:母は亡くなる前に認知症になったんですけど、症状が進むにつれて着たい服を選ぶことができなくなって、いっぱい持っていた洋服の海の中で途方に暮れている姿をみることが増えてきたんですね。

で、これはいけないと思って、「お母さん、着ない服を整理したら? 私も手伝うから」と、2人で話し合いながら服を処分したんです。でも今から考えれば、絶対にやってはいけなかったことだった。

中村:どうしてでしょうか?

稲垣:母が亡くなって遺品を整理していたら、マジックで大きく「捨てるな!」と書いてあるビニール袋が出てきて。

中村:あ……。

稲垣:いつ書いたのかも、私が捨てたことと関係しているのかもわかりませんが、自分の大事なものが「捨てられてしまう」という恐怖が母にはあったんだなと思いました。私は母のために、母の納得を得たうえで処分したというつもりだったけれど、病気で弱くなっていた母には娘の提案を断ることなんてできなかったと思う。

「いいこと」の押し付けって、本当に暴力になるんだって思いました。だから今、父にはなるべく何も言わないようにしています。父には父の価値観があり、80年以上もの歴史がある。どう生きたいかは本人が決めることなのだと。

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