似たような話は「5分間診療」といわれる標準治療(切除手術・抗がん剤と放射線治療のこと)に不信感を覚える、がん患者の場合にもある。
自分の顔よりも、患部のレントゲン写真や検査データのほうを見ながら話すような、大病院の担当医は信頼しづらい。検査結果は順調でも体調がすぐれなければなおさらだ。その場合は本来、患者が対話の方法を試行錯誤して、担当医との信頼関係を手作りする必要がある。
一方、自分の話を1時間以上も聞いてくれるクリニックや、民間療法の先生はどうしても身近に感じてしまう。
だが、標準治療を止めて民間療法に換えると、治療めいた行為などで大金を巻き上げられたうえに、がんが悪化してしまう危険性が高い。
がんに限らず、病気になると誰もが普段のように冷静、かつ賢明ではいられなくなる。標準治療を安全に続けるうえで知っておきたい基礎知識だ。
子どもたちに本を通して伝えたかったこと
だが、その整体師に“解毒”された翌日、左胸に激しい炎症が起きて、真衣さんもようやく目が覚めた。それが冒頭2020年6月の診断につながる。
ピンチの後にチャンスもあった。真衣さんががん治療を受けながら書いた本が多くの読者の共感を得て、小さな出版社ながら増刷をつづけている。今年は4冊の本を出版予定だ。
著書『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社、2022年刊)は、巻頭に「これは、死んだ母が子に贈る、『能力』についての不思議な物語である」とある。
出版時から15年後の未来、社会人になった23歳の長男と17歳の高校生の長女と、幽霊になった真衣さんが、「能力主義」をテーマに対話する設定だ。
冒頭は、老舗大手企業に入社した長男の愚痴から始まる。最終面接では絶賛されて入社して1年超で、彼は失望の真っ只中。上司からは「頭は良くても仕事ができないやつ」「空気読めねぇなぁ」と、酷評されている。
そんな息子に、元コンサルタントで幽霊役の母親はこう話しかける。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら