「ソニーで『活躍』している『優秀』な社員が、そのままパナソニックに転職したとして、同じように『活躍』し、『優秀』と評価されることは確約される?(中略)職場の環境次第で、個々の力の発揮のされ方は変わってくる。その肝心な点を差し置いて、あいつは能力がある、あいつはないと、安易に個人に責任を帰してしまうことが多くないだろうか」(前掲本より引用)
真衣さんにとっては終活としての執筆だった。
「自分が幼い2人の子どもたちに残せるものは何か、と必死で考えたんです。私の心に湧き上がってきたのは、『この行きすぎた能力社会を、自分の子も含めて次世代に残したままでは死に切れない』という切実な思いでした」(真衣さん)
子どものためにという執筆は、彼女にも大きな変化を与えることになる。
「幸せに生きるのに能力なんていらない」
2022年4月、新型コロナウイルスに感染した真衣さんが、大学病院に入院中のことだ。ほぼ書き上げた本の原稿は、エピローグ(結末)だけを残していた。17歳の長女が亡き母親に向けて書く、という設定だけは決めていたが、なかなか書き出せない。
その頃、ふと次の一文が思い浮かんだ。
「幸せに生きるのに能力なんていらない」
乳がんと診断されてからは、慌ただしい毎日に治療が加わり、さらにいろんな人たちが彼女の前に現れては消えていった。
「がんにいいからと、知り合いに正体不明な水などを買わされそうになったり、宗教への勧誘も受けたりしました。一方で私が実家近くに引っ越してからは、小学校時代の元同級生たちがいろいろと私を助けてくれたんです」
先に書いた、真衣さんの小学校の担任教師が、彼女の悪いところを同級生たちに言わせようとした一件。だが、同級生たちはというと、彼女を嫌っていたわけではなかったという。
「私一人がそう思い込んでいただけでした。元同級生たちが私の会社に投資をしてくれたり、私の体調を心配して、子どもたちの分まで晩ご飯のおかずなどを作って差し入れてくれたりしました。ありがたかったですね」
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