シェフたちは、観光客であろうと、リピーターであろうと、お客のために最高の料理を作ろうとしています。私はその過程に対する深い敬意を示したいと思います。これは金銭的な見返りを求めるのではなく、職人としての精神があるからに違いありません。
一方、香港の人たちはビジネスマインドが発達していて、お金にうるさい傾向があります。これは決して悪いことではなく、彼らはより現実的なのです。
香港で少し有名になってからも、料理の腕を磨いたり、食材の研究に没頭していたのですが、周囲からは「有名になったのだから、名声を利用してもっと稼がないと」「進歩がない」と思われていました。見えないプレッシャーがそこにはありました。
日本の食材は「シェフに語りかけるよう」
そんな中、日本の食材を使えば素晴らしい中国料理ができることを知りました。これが2つ目の理由です。
日本の食材はとても面白いし、日本人らしく抑制が利いています。一方、私が香港で使っていた食材は、もっと 「ストレート 」でした。例えば、私が使っていた松茸は、香りが濃厚で、「私は松茸です」と高らかに宣言しているようでした。
しかし、日本の松茸の香りはマイルドで控えめで、「あなたがシェフで、私の可能性を引き出し、アイデンティティを与えてください」と語りかけてくるようでした。
「泣いている赤ちゃん」を理解するように、日本の食材を使いこなすには忍耐と注意が必要です。一度慣れ親しんだ食材は、さまざまな可能性を秘めています。それだけに、温度管理、調理時間、食材のカットの正確さなど、細部にまで気を配る必要があるのです。
こうした細部を極めることで、素材の新鮮な味を保つだけでなく、うま味を最大限に引き出すことが可能になります。少しでも手を抜いてしまうと、食材が「泣いて」しまい、料理全体が台無しになってしまうのです。
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