岩手県が絶滅危惧種イヌワシの生息地を公開の訳 巨大風車群の建設ラッシュ対策で練りだした秘策

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「このままでは、イヌワシは飢餓で死んでしまう」と語る由井博士(撮影:河野博子)

日本のトキは2003年、最後の一羽が新潟県の佐渡トキ保護センターで死亡し、絶滅した。1981年に環境庁(当時)は、佐渡島で野生のトキ5羽を一斉捕獲し、幼鳥のときに捕獲した別のトキとともに6羽で人工繁殖に着手したが、成功しなかった。その後、中国から贈られたつがいで人工繁殖させたトキの放鳥が行われ、野生のトキが増えている。

岩手県では、現在、「26つがい」が生息し、この数を維持することが目標、と公表しているが、実際にはつがいの数も減り続けているという。繁殖率も激減している。由井博士は「世界に生息するイヌワシの中でも日本にいるニホンイヌワシという亜種は一番小さく、森林地帯に生きるのが特徴。欧米のステップとか砂漠に比べて餌場が潤沢にないことが、厳しい」と話す。

風車群の建設で餌場が使えなくなる

風車群の建設の一番の問題は衝突事故(バードストライク)ではなく、「イヌワシには風車を避けて飛ぶ回避能力があるが、行動範囲が狭まり、使っていた餌場が使えなくなることが深刻だ」と由井博士は指摘する。

「岩手のイヌワシは、非繁殖期に巣から20~25キロも離れたところまでエサを取りに行くことがわかっている。繁殖期には、親鳥のどちらかが幼鳥のそばにいなくてはいけないため、巣の周りでエサを取る」(由井博士)。つまり、営巣地からかなり離れた場所に風車を建てるので大丈夫、という問題ではないという。

イヌワシの幼鳥。飛んでいる姿を下から見ると、白い部分が目立つ(写真提供:2016年12月、宮城県内で高橋佑亮氏が撮影)

2008年9月には、2004年12月に運転が開始された釜石広域ウインドファームの43基ある風車の1つにイヌワシが衝突した事故が起きた。由井博士によると、この事故の後、周辺にいた5つがいのうち3つがいが消えてしまうなどの影響があったが、最も深刻な影響は、それまで使っていた餌場が使えなくなったことだ。

「猛禽類は風車から半径500mの範囲の餌場は使わなくなるので、風車一基で78.5ヘクタールの餌場を使えなくなり、40基風車があると、約3200ヘクタールが餌場としてつかえなくなる」。由井博士はこう計算してみせたうえで、風車群がどんどん建つと、「餌場がなくなって、衝突しないまでも、飢餓で死んでしまう。あるいは、幼鳥も育たない」と心配する。

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