岩手県が絶滅危惧種イヌワシの生息地を公開の訳 巨大風車群の建設ラッシュ対策で練りだした秘策

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「環境アセスメントデータベース」(環境省)に収録された「風力発電における鳥類のセンシティビティマップ(イヌワシ)」。10キロ四方のメッシュで表示されている

環境省は風力発電事業者が計画を立てる際に鳥類の生息状況を把握し、事業計画に反映できるよう、「鳥類のセンシティビティマップ」を作成している。

だが、環境アセスメントデータベース(EADAS)で公開しているイヌワシの「センシティビティマップ(生息分布マップ)」は、10キロメッシュ。これに対し、岩手県の1キロメッシュのレッドゾーン図は、より絞り込んだ区域を示した。

イヌワシなど希少野生動物の詳しい生息情報は、通常、明示されない。写真を撮りたい人たちが押し寄せるなど、動物の繁殖や生息を脅かす事態を招く可能性があるからだ。しかし、そうも言っていられなくなった。岩手県が2024年2月末でまとめた表「風力発電所の環境影響評価手続きの実施状況」によると、同県内で国の環境影響評価法に基づき手続き中の風力発電事業は計35事業、総出力計378万7150kWにのぼる。

イヌワシの重要な生息地および生息地。国土地理院地図や環境省生物多様性センターのGISデータを使用し、岩手県が作成。レッドゾーンなど3つのゾーンに区分されている

2022年度に環境アセス手続きを始めた事業だけでも8件に上った。県の環境影響評価技術審査会で、イヌワシの生息地への配慮を求める委員側と、「配慮をするかどうかは、自分たちで調査を行って決める」と主張する事業者側が押し問答をする場面も見られた。

レッドゾーンなどの設定の根拠法令は、県基本条例上の自然環境保全の支障の防止措置および環境アセス省令。省令は経済産業省の省令で、通称・発電所アセス省令とも呼ばれ、「自治体による環境保全上の基準との整合」を求めた項目もある。

3つのゾーンを明示した立地選定基準は、県の環境影響評価ガイドラインを改定して盛りこんだ。

「トキの二の舞いは避けたい、しかしもう間に合わないかも」とイヌワシ研究の大家

イヌワシは、タカ目タカ科の大型猛禽類。頭から尻尾までの全長が81~89㎝、翼を広げると168~213㎝、山地帯に生息する。環境省のレッドリストに絶滅危惧IB類として掲載され、種の保存法に基づいて国内希少野生動物種に指定され、国の天然記念物でもある。

長年、イヌワシの生息環境の研究に携わってきた岩手県立大学名誉教授の由井正敏博士(80歳)は、全国のイヌワシの生息数について、「日本イヌワシ研究会の数字ですが、172つがい。親鳥の数はこれを倍にして344羽。あと幼鳥や若鳥を入れて、400羽前後ではないか」と説明した後、「トキの二の舞いにならなければいいけど。でももう遅いかもしれない」とため息をついた。

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