1962年の都市計画道路の整備が急に動き出した謎 かろうじて復活した自然生態系に道路建設が迫る

東京・小金井市を中心に東西に延びる斜面地は「はけ(国分寺崖線)」と呼ばれる。武蔵野台地がかつて、古多摩川に削られたなごり。ところどころから水が湧き、その水が流れ込んで「野川」となっている。新緑の5月。都立武蔵野公園、野川公園を流れる野川では、もうすぐ蛍も舞う。
そこに迫るのが、都市計画道路の建設計画だ。多くの市民の活動によりかろうじて保全・再生された自然生態系への影響を心配する声は根強い。

はけ、湧き水、野川は大岡昇平の小説の舞台になった
はけ、湧き水、野川は、大岡昇平の小説「武蔵野夫人」(1950年文芸誌に発表、翌年初版本刊行)の舞台となった。主な登場人物の一人、復員して大学に通う青年が歩いた景色はいまや、アスファルトで固められた住宅街。だが湧き水は残っている。

小金井市が管理し、開園している庭園「滄浪泉園」(そうろうせんえん)や、市立はけの森美術館裏の「美術の森緑地」の庭の湧水など3カ所は、東京都が選定した「東京の名湧水」に選ばれている。それだけではない。
崖下を縫うように続く「はけの道」は、小金井市が市民公募でつけた愛称で、訪れる人が多い。道沿いには、市天然記念物の巨木オニイタヤがそびえ立つ旧家がある。庭の奥を見せてもらったところ、ここにも湧き水があった。
はけ(崖)の上と下では、約10~15m以上の高低差がある。降った雨が富士山の火山灰のローム層を通ってその下の砂利の層の中にたまる。さらにその下の粘土層が水を通しにくいため、はけの下で湧き水となって出る。こうした湧き水が野川に流れ込んでいる。
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