1962年の都市計画道路の整備が急に動き出した謎 かろうじて復活した自然生態系に道路建設が迫る

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ただ、第四次事業化計画がうたう2025年度中の事業着手は難しい。事業着手とは、国土交通省から事業認可を得ることを指す。通常は地権者への説明や測量などに約2年かかるが、このプロセスにはまだ入っていない。荒井徹・道路建設部計画課長は「2025年度中の事業着手は予定していない。駆け込みは考えていない」と明らかにした。

自然生態系への影響に懸念が膨らむ

野川ほたる村が武蔵野公園と野川区域の生きものについて調査し、まとめたところ、植物、昆虫、野鳥、爬虫類、両生類、陸生貝類、クモ類、哺乳類、魚類、底生生物など約1300種のうち、都のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている種が79種に及ぶことがわかった。

はけと野川の生きものを見続けてきた江頭さんはこう話す。「個々の動物、植物は網状のネットで結ばれている。その生態系の網目のあちこちが破れかけている、ほころんでいる、ということです。79ということは、全網目の6%。一つつぶれれば、周辺に広がる。ガンのようにほころびが広がっていって、自然生態系が衰退し、ダメになる」「野川は水の回廊、はけは緑の回廊でしょ。回廊で種と遺伝子を供給、交換している。そこが道路で分断されると、深刻な影響が起きる」。

道路がはけや野川を南北に縦断すると、何が起きるのか。「橋梁方式の道路の場合、橋の下は日が当たらず、植生がなくなる。昆虫や野鳥もいなくなる。照明に照らされ、昼夜がなくなるので昼行性の昆虫、夜行性の昆虫とも嗅覚や触覚機能がマヒして弱る。繁殖もできない。排ガスの影響も大きい」(江頭さん)。

確かに、都が行った環境調査では環境省や都のレッドリストで準絶滅危惧種の植物キンランに「道路の影響が生じる可能性がある」が、「移植は困難」としている。

植生の専門家で、研究者や市民による「みずとみどり研究会」前事務局長の星野順子さん(64歳)は「キンランはラン科植物で移植は難しいとは思う。はけと野川地域には、都のレッドデータブックに上がっているニリンソウなど、水温が低く、地表近くの湧き水があるからこそ、その環境を利用して生育する植物がある。微妙に生育環境が変わると影響は大きい」と心配する。

2030年までに自然生態系の劣化を止めて回復させよう、というネイチャー・ポジティブの掛け声のもと、世界で取り組みが広がる。かろうじて東京に残った自然をどう扱うのかは、小金井市だけの問題ではない。開発で緑が減ればまた植えればよい、という単純な問題でもない。都市に水と緑をベースに多様な生きものがネットワークを作る空間がある場合、それをできるだけキープしていくことが求められる。

2024年11~12月に都が行ったパネル展示による説明会で行われたアンケート調査にこう書き込んだ人がいた。「残り少ないハケの自然をこれ以上減らしたら元に戻らない。将来の小金井の汚点にしたくない」。そう思う人は少なくないだろう。

小金井市の位置(国土数値情報を使用し、ごん屋が作成)
はけの森に咲いたキンラン(提供:江頭輝さん)
河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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