社会資本の老朽化は想定内の緩やかな震災--『朽ちるインフラ』を書いた根本祐二氏(東洋大学大学院経済学研究科公民連携専攻主任教授)に聞く
老朽化する道路・橋や学校、上下水道などの更新投資を先送りすると、毎年8兆円の巨額な“隠れ債務”が生まれるという。財政制約の中で、少ない投資で更新効果を上げる知恵が求められている。
──毎年8兆円の更新投資が必要なのですか。
ほぼ正確な数値だ。GDP統計ではなく個別積み上げ方式でシンプルに計算した。今の社会資本ストックを更新するには、今後50年間に330兆円、年平均にすると8兆円強の更新投資が必要になる。現行の公共投資予算を毎年3割増やさなければならない規模だ。
──個別積み上げ方式とは。
社会資本ストックの床面積などの物理量と更新単価を掛けた積を、耐用年数で割って毎年の更新金額を算出し、ストックの種別に集計する方法だ。たとえば、30年前に延べ床面積1000平方メートル、耐用年数50年の公共施設を建設したとする。その建設単価を1平方メートル当たり27万円とすると、この施設は20年後に2億7000万円の更新投資をする必要があることになる。この考え方で、すべての施設、インフラをストックとして合算していくと全体の数字が得られる。
──東日本大震災がむしろ更新投資洗い直しの促進になったようですね。
重要な示唆を与えた。今回、巨大地震、巨大津波、そして原発事故と「想定外」のことが相次いだ。これに対して社会資本の老朽化は、想定内の確実にくる「緩やかな震災」と言えるもの。社会資本は老朽化によって、いずれも確実に壊れる。きちんと取り組めば確実に予見されることには回避の手を尽くせる。
──大震災は老朽化施設にダメージを与えました。
1981年以降は震度7での耐震性が建築基準法でハードルになった。津波による被害を度外視すれば、その年以降に建設された公共施設で地震によって倒壊した施設はない。強度の強化は正解だった。