アップルの"化けの皮"を歌姫が引き剥がした なぜ宣伝負担を業界に押しつけようとしたか

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アップルは1997年に倒産間際の状況に追い込まれ、そこから奇跡的な復活を遂げた。その過程において、「インターネットを通じて音楽活動に自由を」という戦いを、音楽アーティスト側に立って行ってきたというイメージ戦略がアップルのブランド価値を高めた時期があった。このあたりはWWDC基調講演の記事で詳しく触れた。

アップルは30億ドルもの巨額資金を投じてBeatsを買収し、音楽コミュニティに近いジミー・アイオヴィンを幹部として迎え、時代から取り残されつつあったiTunesの音楽ビジネスモデルを一新することに力を注いできた。CEOのティム・クックは、WWDC基調講演でアップルが音楽アーティストと産業にかかわる全ての人に敬意を払っているとも話していた。

しかし、今回の騒動で、そんなアップルの美しいメッセージが無に帰してしまうかもしれない。一部には「良い宣伝になった」「茶番劇」との声もあるが、一連の出来事に関していくつかの視点を提供したい。

アーティストと契約をする前から無償提供を発表

テイラー・スウィフトが出した声明で明らかになったのは、アップルが新サービスを最初の3カ月、無償で提供すると発表した時点では、アーティストとの間に楽曲提供の契約を持っていなかったということだ。

ストリーミング配信に必要な著作隣接権は、さまざまなステークホルダーが保有していることが多く、ワンストップで楽曲を利用する権利を獲得することはできない。グローバルで配信する権利を簡単に得ることは、たとえアップルのような巨大企業であっても難しい。

アップルは音楽レーベルに対しては、Apple Musicを無料提供している期間中の楽曲使用料支払いについてある程度の合意をしていたのだろうが、アーティストとの合意には至っていなかったということだ。

また米国に拠点を持つ音楽レーベルへの根回しはできていたかもしれないが、それ以外の国での準備も整っていなかった可能性が高い。アデルなどの有力アーティストを抱える英ベガーズはApple Musicに対する苦情を訴えるニュースリリースを発行している。ここでベガーズが主張しているのは「アップルが始める新サービスのプロモーション費用を、なぜ著作権者やアーティストが負担しなければならないのか理解できない」というものだ。

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