アップルの"化けの皮"を歌姫が引き剥がした なぜ宣伝負担を業界に押しつけようとしたか

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音楽著作権は複雑にステークホルダーが絡まっており、ワンストップで権利を取得することは難しい。このためアップルはこれまでも、ある程度の範囲で合意が取れると大々的なサービス開始を発表し、ビジネスとして立ち上げることで合意を迫るといった手法を採ってきた。今回はそんな手法の無理が表出したということかもしれない。

しかしながら、”無料試用”という名のプロモーションに対するコストは、当然ながら運営者であるアップル自身が負担すべきものだ。もちろん、他ステークホルダーに対して(いわば現物支給で)プロモーション協力を願い出ることもあるだろうが、それは相手の同意の下で行われるべきものだ。

撤回はしたものの、無料期間中は使用料を支払わないという元々の方針は「プロモーションには楽曲権利保有者も協力すべき」というアップル側の奢りがもたらしたものであることに変わりはない。

確かにApple Musicは音楽レーベルやアーティストにとって、魅力的な側面のあるサービスだ。日本ではCDなどの物理メディア売り上げもまだ残っているが、北米も欧州もCDはまったく売れず、楽曲保有という概念すら若年層では崩壊しつつある。

音楽はネットラジオやYouTubeなどから降ってくる無料のエンターテインメントというイメージを持つ世代が増えている。無料で音楽を楽しんでいる世代が、将来、音楽にどれだけの支払をするか?と考えると身震いする音楽業界の人は少なくないだろう。

アップルの強みとは?

そうした中で、音楽売り上げが減ってきているとはいえ、全年齢層に対してポジティブな印象があるアップルが、Beatsという若年層にも訴求できるブランドを得て音楽配信サービスを行う。しかも他サービスと大きく異なるのは、多様な支払い方法がすでに確立されているApple IDに多数の会員が登録済みであることだ。

アップルはApple IDを通じて音楽購入をしているユーザーが、月間アクティブユーザー数でどの程度いるのかを公表していないが、昨年、Beatsを買収した際に担当幹部のエディ・キューはiTunesの利用者が全世界で8億人以上いると話した。彼らを有料の加入型音楽配信サービスに導ける可能性があるなら、そこに賭けたいという音楽レーベルやアーティストもいることだろう。

「アーティストにも利がある。音楽産業を盛り上げることに繋がることをやるのだ」というのがアップルの本音だろう。とはいえ、同意を得ないまま、3カ月分の楽曲使用料を無料にしてくれという契約を送りつけるのは一方的に過ぎる。音楽ビジネスは楽曲の売上げ中心から、コンサートなどのリアルイベントへと事業の中心が移っているという主張もあるが、いずれにしろアップルのプロモーションに協力するか否かを決めるのは、アップル側ではない。

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