アップルの"化けの皮"を歌姫が引き剥がした なぜ宣伝負担を業界に押しつけようとしたか

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そもそも、テイラー・スウィフトの楽曲にしても、テイラーひとりで作り上げ、作品として仕上げ、商品として流通させているわけではない。そこにはたくさんの人が関わっているのだから、無形の在庫を伴わないデジタルコンテンツとはいえ、アップルのやり方が音楽の価値を軽んじているからこそだと思われるのは致し方ないところだろう。

エディ・キューは”素早い判断で危機を脱した”などとは思っておらず、”恥ずかしい。この話はすぐに終わって欲しい”と考えているのではないだろうか。もし、クレームをつけたのがテイラー・スウィフトではなく、影響力の小さなアーティストであったなら、アップルは即座に方針転換をしたのか?という疑問もついて回る。アップルの優越的な立場を利用し、アーティストに圧力をかけたという印象だけは避けたいところだが、現時点の振る舞いからは懸念をぬぐい去ることはできない。

トム・コンラッドが劇場型の宣伝と批判

一方で、この一連のやり取りが茶番だという指摘もある。筆者自身はその考えを支持していないが、たとえば米ビジネスインサイダーは、Pandra 元CTOのトム・コンラッドが劇場型の宣伝だと批判しているとの記事を掲載した。コンラッドはテイラー・スウィフトが、音楽が無料で再生されることを嫌っているにもかかわらず、最大の無料音楽供給源であるYouTubeから楽曲を引き上げていない点も指摘している。

こうした見方を強化しているのは、冒頭でも話したエディ・キューのあまりに早い方針転換だ。アップルが3カ月分の楽曲使用料を余裕で支払える現金を保有していることは周知だが、そうだとしても取締役会の承認なしに、それだけの金額を支払うと公に約束することが本当にできるのか、という疑問だ。

今回のニュースは欧米でも大きな話題になっており、テクノロジー製品への興味が薄い層に対してもApple Musicという新サービスについて(アップルが意図していたかどうかは別として)周知が進んだことは確かだろう。そうした意味では、良い宣伝になったという意味で”プラス要因”とも捉えることができる。

とはいえ、一連のやりとりは、これまでアップルブランドの屋台骨を支えてきた”アーティスト、音楽産業と共にあるアップル”というイメージが壊れるきっかけになるかもしれない。古臭くなったiTunesをメンテナンスする事業として準備してきたApple Musicは、単純な収益だけでははかれない重要なものだったはず。それが台無しになってしまうのかどうか。

アップルのダメージコントロール能力が試される場面といえるだろう。

=敬称略=

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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