浅野は、キッチンに立ったベネデット氏のたたずまいを、こんなふうに表現した。「彼女が料理をしているところを見るとね、お母さんが家族のために台所に立っているような、おおらかな風情を感じるんだ」
土の上を歩けば「通じ合う言葉」がある
ベネデット氏が作るものは「味が違う」のだと浅野は言う。
「おいしいとかまずいとか、そんな単純な次元じゃない。表現するのが難しいんだけど、もっと何か特別なものを感じたね」
浅野は、わかりやすいものさしや、表面的な言葉のやり取りだけで料理人を見ることは決してない。土の上を一緒に歩き、自分が表現するものを相手がどう受け止めるかを感じながら、そこに共通言語を生み出していく。
詳細は別記事に譲るが、「世界一予約が取れないレストラン」として知られる「noma」のオーナーシェフ、レネ・レゼピ氏が浅野を訪ねてきた際も、浅野はそういったレベルの言語のやり取りをしていたようだ。
Farm to Table――畑から食卓へ。
浅野は、そのひと続きの道を拓いた先駆者として知られている。
「百姓」としての浅野の器量は、料理人の好奇心や創造力を引き寄せる。
そこに生まれる共創が、誰にも真似できない独創的な一皿や、人の記憶にいつまでも残る一皿を生み出す力になっていくのだ。
*この記事の1回目:「伝説の農家」の極上野菜、3つ星シェフ食べた感想
著者フォローすると、成見 智子さんの最新記事をメールでお知らせします。
著者フォロー
フォローした著者の最新記事が公開されると、メールでお知らせします。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。
なるみ ともこ / Tomoko Narumi
東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学卒業後、銀行勤務などを経てフリーに。東南アジアの経済格差問題等をテーマに取材活動を始め、2010年頃から農業と食の現場取材をメインとする。年間数十件の生産現場を訪問し、雑誌やwebメディア等に出稿。24年3月、『Farm to Table シェフに愛される百姓・浅野悦男の365日』(平凡社・共著)を上梓。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら