「男性の方が競争好き」「女性の方が自信はない」という傾向についてはFacebookのシェリル・サンドバーグ氏の『LEAN IN』でも取り上げられていましたし、行動経済学などでも指摘されている現象です。これは、生まれつきなのか、それとも親や周囲にそのように仕向けられているのか。男女の違いを説明するものには、私は大きく分けて(1)生物学的要因で説明するもの、(2)社会的要因で説明するものの2種類があると思います。
生まれ持った男女の特性はあるけれど…
まず(1)の生物学的説明についてです。私自身も息子を産んで、まったく誘導していないつもりなのに車や電車に多大な興味を示すのを見て「生まれつきのものってあるんだ」と思わずにはいられませんでした。もちろん車が好きな女の子も、車が好きじゃない男の子もいるけれど、統計的に差が出るくらいには、男女で好みや特性がありそうな気はします。
1960~70年代にはどちらかというと、本質主義には批判が集まり、男女差について環境や文化の要因が研究対象となっていたようです。でも、最近はMRI などの技術進歩で脳の動きを見たり、ホルモンの研究が進んだりして、脳科学、社会生物学、進化心理学などで、男女には違いがあるということを説明する研究や書籍が出てきています。
たとえば、世界的ベストセラーになった『地図が読めない女、話を聞かない男』では男性は空間把握能力が優れていて、乳幼児の頃からモノやその仕組みに興味を持つのに対し、女性は視野が広く、同時に複数のことができる、人とその関係に興味を持つなどの違いがあるとしています。
この本では「男女が同質でないことを認めても、同等でないということにはならない」ことを注意深く説明しています。2005年に翻訳された『共感する女脳、システム化する男脳』という本でも、ステレオタイプ化は避けるべきだとされており、研究者たちが非常に気を使いながら発信をしている様子がうかがえます。
あくまでもこれらの研究は平均的なものを見ているので、「ダイバーシティ研修」などで「女性にはこのような言い方をしても通じませんよ」とレクチャーするような動きには私は違和感を覚えます。真のダイバーシティとは個々の違いを尊重すべきものでしょうし、LGBTなど多様な身体や自己認識があり得る中、男女の2分法で考えることは結局ステレオタイプを強化することになりかねないからです。
でも、確かに第5回記事「男女ミックス試合に勝つ企業、負ける企業」で取り上げたように、同質だった集団の中に、明らかにコミュニケーション方法が異なるタイプの人が増えれば、今までと同じ方法のマネジメントは通用しなくなるのも事実です。異質なタイプの人のことを正当に評価できなかったり、相手のモチベーションを下げてしまったりすることはあるでしょう。
多様性があることはイノベーションや問題解決につながりますので、個々人の差異は尊重し、発揮してもらったほうがいいわけです。その差は男女差によるものとは限らないと思いますが、あくまでもひとつの参考として、「自分の隣に座っている人の発想や興味、頭の使い方、世界の見え方は自分とは違うものかもしれない」ということに想像力を働かせるのに、この手の研究を知る意義はあるかもしれません。
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