「退陣承諾表明」とその後の居座り、場当たりと思いつきの政策の連発、政治の長期機能不全などで、国民はとっくに菅首相を見限っている。だが、原発大事故以後、国民が志向するようになった「脱原発」を掲げ、その牽引役を買って出れば、起死回生の逆転ホームランとなり、あわよくば長期続投の突破口に、と首相は考えたのだろう。
だとすると、今週発表の世論調査の数字はショックだったに違いない。12日発表の朝日新聞の調査では「原発の段階的縮減と将来の廃止」に賛成が77%で、「脱原発」路線は支持を得たのに、菅内閣支持率は15%に下落した。14日発表の時事通信の調査でも、内閣支持率は12.5%となり、民主党政権発足後、最低となった。一言で言えば、国民は「脱原発」支持だが、菅首相は担い手として不可という判断を下した。逆転ホームランにならないと知らされ、もはやこれまでと菅首相が観念する場面が近づいているのかもしれない。
政権交代から2年、民主党は今や政権担当可能な政党として生き残ることができるかどうかの瀬戸際に立たされている。党存亡の危機だから、菅首相が居座りを続けるかどうかに関係なく、今こそ次代を担うリーダーたちが、進んで声を上げ、旗を立てて、党所属議員や党員、国民に呼びかけ、巻き込む形で行動を起こすときである。菅首相の退陣をめぐる攻防は8月上旬が山場と見られるが、であれば、残り時間は1カ月足らずしかない。
まず政策と路線の提案が必要だ。2009年のマニフェストの問題点が指摘されてきたが、3・11による事情変更によって、ゼロベースでの見直しも可能になった。大震災後の日本の復興と再生、長期デフレからの脱却、政治の機能回復、さらに民主党政権と政権交代の実績と効果について、未来図と衆議院議員任期満了までの2年間の設計図を示す。それを掲げて、「この指止まれ」方式で与野党の賛同する勢力を結集する。私心を捨てて危機克服に立ち向かう覚悟と行動力を持ったリーダーは民主党にいないのか、と叫びたい。民主党のリーダーたちの危機感の乏しさが菅首相のやりたい放題を許しているのではないか。
(撮影:尾形文繁)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら