このカンファレンスは、一般的な学会と同じく、ある程度フォーマルな服装で参加するのが通例だ。ジーノは参加者一人ひとりの服装を記録し、さらに、その人物の学会におけるステイタスを計る指標として、過去に出版した査読済み論文の数と照らし合わせた。
すると、服装がきちんとしているかどうかという点と、発表した論文の数は、反比例の関係にあることがわかった。成功している学者ほど、慣例に従わない服装をする傾向があったのだ。
この実験でわかるのは、ステイタスの高い人ほど慣例を破りやすいという点だけだ。それが他人の目にどう映るかという点はわからない。
非同調型の行動は社会的コストを伴う
ジーノはさらにシルヴィア・ベレッツァおよびアナット・ケイナンとの研究で、この点を掘り下げた。実験では被験者159人に、ある「教授」について簡単に説明し、ステイタスと能力を評価するよう求めた。
説明文は二通りあり、同調型として書かれた文章(「マイクは基本的にはネクタイを着用し、ひげはきちんと剃っています」)と、非同調型として書かれた文章(「マイクは基本的にTシャツを着用し、あごひげを伸ばしています」)があった。
被験者はこれを読んで、教授の能力と、この教授が周囲からどの程度尊敬されているかという点を推測し、7ポイント制で評価する。すると、非同調型教授のスコアが平均5.35、同調型教授のスコアは5.00だった。統計的に有意と言える差が生じている。
ジーノらの論文は次のように考察している。
非同調型の行動は社会的コストを伴うことが多い。そのため周囲に同調しない人物を目にした人は、その人物は社会的ヒエラルキーにおいて立場がゆらぐ心配をする必要がない、つまり非同調的行動の社会的コストを気にしなくてもよいほどに、パワフルなポジションにあるのだろうと解釈する。
ジーノはこの考察に「レッドスニーカー効果」という名前をつけた。当時、著名なIT系起業家にビジネス上のドレスコードを無視する傾向が見られたことにちなんでいる。大事な会議にもスーツとネクタイではなく、スウェットシャツやトレーニングシューズで出席する――ときには真っ赤なスニーカーで――という様子を表現したネーミングだった。
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