「倍速消費」並みになった合意形成のスピード感 政策が次々と「検討なく」決められている理由

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佐藤:政治は結果がすべてです。経世済民が達成されるのであれば、期間限定の独裁であろうと、いちがいに否定はできません。けれども、平成日本はいかなる結果を出したか。うまく機能していたシステムをぶち壊して、貧困化と格差拡大をもたらすシステムに置き換えるという、惨憺たる結果を出して終わったのです。

平成以後に自由民主主義の否定が進行した

新自由主義と脱成長をもうやめる』でも議論されたように、自由民主主義の社会には本来、いろいろな中間団体があって、意見調整、すなわち根回しを行う。これによって合意の基盤が形成されてゆくのです。だからこそ、最後の多数決で負けたとしても、システム自体への信頼は揺るがない。

その意味で平成以後、わが国では自由民主主義の否定が進行したと言えるでしょう。そして今や、社会的合意形成の努力を政治がいよいよ放棄した感が強い。「この政策をやるんだ」と決めたら最後、問題点や弊害をいかに指摘されようが、反対の世論が強かろうが、意地になって強行するということです。

かつてなら、反対や批判の多い政策については、いったん撤回、ないし凍結したうえで、根回しや練り直しに努めるのが当たり前でした。例えば消費税も、最初に話が持ち上がってから、導入が決まるまでに10年かかっている。その間、お蔵入りにしたり、税の名称を変えてみたり、税率をいじったりと、いろいろ紆余曲折がありました。

しかるに現在はどうか。健康保険証の廃止、インボイス制度の導入、あるいは万博開催をめぐる政府の姿勢は、「やると決めたんだから、何が何でもやるんだ」という頑迷なものにしか見えません。SNSで批判されるや、すぐ相手をブロックするので有名になった大臣までいるくらいです。

佐藤 健志(さとう けんじ)/評論家・作家。1966年、東京都生まれ。東京大学教養学部卒業。1990年代以来、多角的な視点に基づく独自の評論活動を展開。『感染の令和』(KKベストセラーズ)、『平和主義は貧困への道』(同)、『新訳 フランス革命の省察』(PHP研究所)をはじめ、著書・訳書多数。さらに2019年より、経営科学出版でオンライン講座を配信。『痛快! 戦後ニッポンの正体』全3巻、『佐藤健志のニッポン崩壊の研究』全3巻を経て、現在『佐藤健志の2025ニッポン終焉 新自由主義と主権喪失からの脱却』全3巻が制作されている(写真:佐藤健志) 

要するにイヤなことは聞きたくないわけですが、これで物事がうまく行くはずがない。マイナ保険証の利用率は、2月末の時点で全国平均4.6%、最も低い沖縄に至っては2.3%にとどまっています。インボイス制度にしても、物価高による国民生活の圧迫が論じられているさなかに導入するという支離滅裂ぶり。あれは増税と同じ効果があるのですから、まともに考えれば中止か、少なくとも延期して当然でしょう。

もとより経世済民にマイナスであっても、それで支持率が上がる、つまり政権運営が容易になるというのなら、メチャクチャな政策を強行するのも理解できなくはない。実際、そういう破壊主義的なリーダーが国民の喝采を浴びた時期もありました。

けれども岸田内閣はみごとに不人気。ヤケになったあげく、自滅的に暴走する「無敵」の状態に陥っているとまで評されるありさまです。かつて小泉純一郎総理は、「古い自民党をぶっ壊す」と宣言しましたが、岸田総理は「自民党を完全にぶっ壊す」ところまで行くかもしれません。

行動を根本から変えねばならないのは明らかなんですよ。ところが、それができない。リーダーシップにたいする考え方、リーダーシップ自体の概念が大きく狂ってしまったからです。有名なアニメの主題歌をもじれば「思い込んだら自滅の道を、行くが政治のド根性」、そんな錯覚が定着したと言わねばなりません。

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