「老後ひとり暮らし」心を病む人病まない人の差 自分の思うままに生きる「スナフキン」に学ぶ

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実は、日本は社会的孤立に陥りやすい国です。過去に行われた調査では、OECD諸国の中で、人付き合いが滅多にないと答えた人の割合がもっとも多かったのが日本でした(「Society at a Glance」2005年)。

(『老後ひとり暮らしの壁 身近に頼る人がいない人のための解決策』より)

これは、人との関わりがなくてもある程度は生活できるという、日本社会の成熟を示しているのかもしれません。

しかし歳をとれば、話し相手や相談相手、身元を保証してくれる人、日常生活の世話や介護を頼める人、死後の手続きを頼める人など、セーフティネットとして必要な人間関係というのが出てきます。

おひとりさまには「人に頼りたくない」「迷惑をかけたくない」と言う方が多いのですが、できないことは人にやってもらって当然ではないでしょうか。ただし、自分ができることを積極的に人にも提供する。それが共同体を支える相互扶助だと理解できます。

自立することは孤立することではありません。

居場所を失ったおひとりさまが抱える深刻な問題

佐々木さん(仮名)は、腰痛と気分の低下で精神科医・江越正敏先生のクリニックを受診してきた50代の男性です。

メディアのクリエイターとしてバリバリ働く、いわゆる独身貴族。未婚ですが、いつも年下の彼女を連れて歩いていました。

しかし、あるとき突然、総務部へ異動になってしまいます。それから腰痛が悪化して布団から起き上がることもできなくなり、休職せざるを得なくなりました。

佐々木さんの問題は、自分の居場所を失ってしまったことです。佐々木さんはクリエイティブな仕事が大好きで、誇りをもって働いていました。ところが総務部に異動になり、相当にショックだったようです。彼は異動を「左遷された」と感じていました。その結果、うつ病を発症してしまったのです。しかし、本人はそれを認めていませんから、腰痛というかたちで身体症状として現れていたのです。

佐々木さんが興味深いのは、彼女がいても十分に所属欲求を満たせていないこと。それまであった居場所が奪われた喪失の痛みは、それだけ強いものなのでしょう。

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