では、この乳児のひとり言の一端はいつから始まるのでしょうか。一般的に5カ月で「人に向かって声を出す」、6カ月で「おもちゃなどに向かって声を出す」、9カ月で「さかんにおしゃべりをする」とされています。
さらに10カ月になると、喃語(なんご)と呼ばれる「ばばば」「ままま」など意味のない言葉が減り、意思伝達が明瞭になってきます。この頃から左脳右脳の「聴覚系」脳番地の成長が加速してきます。
つまり、赤ちゃんは10カ月頃からひとり言を言い始めて、「運動系」「聴覚系」「伝達系」の脳番地が成長していきます。さらに1歳を過ぎると、海馬などの「記憶系」脳番地と「伝達系」脳番地が繋がり、どんどん言葉を覚えていきます。
このように、子どもの脳の成長にひとり言が大きく関わっていることは、明らかです。
しゃべらないと感情がなくなる
人は生まれてから「ひとり言」によって脳を発達させてきたわけですが、大人になるとその効能を忘れてしまうようです。
実際、患者さんと話をしていて愕然とすることがよくあります。
たとえば、「人と話すのが面倒くさい」と言って、ふだん会話らしい会話をしていない人が少なくありません。仕事はしていても、コミュニケーションが苦手だから口を利かないのです。
彼らの脳を画像診断すると、左脳のこめかみ部分にある「伝達系」脳番地が働いていないことがわかります。「伝達系」が働かないと、「感情系」も弱くなります。表情が乏しいのは、そのせいでしょう。
「これまでの人生で、感動したことを言ってみて」と聞くと、ずっと考えて、それでも思いつかない。言葉を発していないために、「感情系」とともに「記憶系」の働きもすっかり弱くなってしまっているのです。
当然ですが、自己認知力も弱いため、自分に対して自信を持つことも難しい。今はまだ何とか社会生活を送っているようですが、このまま放っておくと危ないと感じました。
日頃から、自分の声を出していないことが致命的です。声を出すことで自己確認=自己認知し、同時に自分の気持ちや感情を知ることができます。自分の感情や気持ちがわかって始めて、相手の気持ちや感情も理解できるのです。
「とにかく人と話をしてみよう。それが難しければ、ひとり言でもいいから話すようにしてみては?」とアドバイスするようにしています。
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