4月生まれは「能力が高い」と言われる本当の理由 生まれた月の差ではなく学習機会の差が原因だ

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この差異は、科学社会学における「マタイ効果」によって説明できると考えられています。科学社会学の創始者であるロバート・マートンは、条件に恵まれた研究者は優れた業績を挙げることでさらに条件に恵まれる、という「利益─優位性の累積」のメカニズムの存在を指摘しています。

ロバート・キング・マートン(1910〜2003):アメリカの社会学者。科学的社会学の発展に大きな業績を残した。「マタイ効果」や「予言の自己成就」など、今日広く用いられることになったコンセプトを提案した。

マートンは、新約聖書のマタイ福音書の文言「おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう」という一節から借用してこのメカニズムを「マタイ効果」と命名しました。

著名科学者による科学的文献には水増しする形で承認が与えられる一方、無名科学者にはそれが与えられません。例えば、ノーベル賞受賞者は、生涯ノーベル賞受賞者であり続けますが、この受賞者は学界で有利な地位が与えられるために、科学資源の配分、共同研究、後継者の養成においてますます大きな役割を果たす一方、例えば無名の新人科学者の論文は学術誌に受理されにくく、業績を発表することについて著名科学者に比べて不利な位置におかれる、ということです。

数カ月分、経験値があるため有利なだけ

この「マタイ効果」が、子供たちにも作用しているのではないかという仮説は以前から教育関係者の間で議論されていました。例えば、同学年で野球チームを作る場合、4月生まれの方が体力面でも精神面でも発育が進み、どうしても有利な場合が多い。

そのため、結果的にチームのスタメンに選ばれ、より質の高い経験と指導を受けられる可能性が高まります。人はいったん成長の機会を与えられるとモチベーションが高まり、練習に励むようになりますからこれでますます差がつく。

この「マタイ効果」についての是非の議論は横においておくとして、これらの事実、つまり4月生まれは3月生まれよりスポーツも勉強もできる、という統計的事実と、その要因に対してマートンが唱えた仮説は、組織における「学習機会のあり方」について私たちに大きな反省材料を与えてくれると思います。

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