アップルの「Vision Pro」発売は"時期尚早"なのか 未成熟、利益貢献は先でも今投入すべき理由

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ではそのためにアップルは何をすべきなのか。手のひらに載せ、誰もがその体験を共有できたiPhoneのときとは訳が違う。Apple Vision Proは1台ずつ、1人ひとりが個別に体感してその価値を理解する、情報の伝搬が遅いジャンルの製品だ。

アップルが時期尚早とも受け取れるこの時期から、Apple Vision Proを世の中に投入し、テクノロジーの世界に興味を持つ開発者、クリエイター、そしてわれわれのようなジャーナリスト、テクノロジー業界に身を置くあらゆる人たちを通じて、「空間コンピュータとはどのようなものか」を可視化することにした。

それこそが第1世代Apple Vision Proの役割、というのが筆者の理解だ。

未形成の市場に開発者を呼び込めるか

Straits Researchのレポートによると、スマートフォンアプリ市場は年間2000億ドル規模を突破し、今後も年間12.8%のペースで成長するという。この数字をどこまで信頼するかはともかく、スマートフォンアプリ市場と比べれば、今のところ“ほぼゼロ”の空間コンピュータ向けアプリ市場は、開発者にとって魅力的な領域とは言えない。

市場が小さいだけではなく、開発のハードルも高く、品質の高いアプリを生み出すには相応のコストもかかる。スマートフォンアプリ市場のように、ユーザーの顔やニーズが見えているわけでもない。

ただ見方を変えると、まだ新しい市場に最初に飛び込めば、定番アプリのランキングが固定化しているスマートフォンアプリ市場では難しい、純粋な創造性で勝負することもできる。

魅力的な未来を実際に体験できる機会を作ることで、“ファーストペンギン”となるクリエイターを呼び込むことは十分に可能だと、Apple Vision Proを毎日使いながら感じている。

驚くべき体験は一瞬の熱狂、熱量を生み出すが、ブームを持続的なものにできなければ、生み出した熱量に比例した失望、冷淡な視線を生み出すだろう。

しかしアップルは決めた。

彼らのデバイスが見せているのは、数年後の未来だ。まだ今は遠く手が届かないように感じられる”点”へとたどり着けることを見せ、体験させることで、未来の開発者、クリエイターを目指す才能たちを誘っている。

常識的に言えば、ビジネスを始めるには”早すぎる”プロダクトだ。しかし今あえて投入したのは、アップルがアップルであり続けるため、新しい世代と強く結びつき、新しい価値を生み出す事業基盤を作るうえで避けて通れない道だと見定めたからだ。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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