アップルの「Vision Pro」発売は"時期尚早"なのか 未成熟、利益貢献は先でも今投入すべき理由
実は「空間コンピュータ」というアイデアについて、最初に世の中に問うたのはアップルではない。真っ先に空間コンピュータの開発に取り組んできたのはマイクロソフトだった。
HoloLensと名付けた自社開発のハードウェアを伴うプロジェクトは解散したマイクロソフトだが、Apple Vision ProにはオフィススイートのMicrosoft 365を初日から対応させた。その中に含まれるTeamsのほか、シスコシステムズのWebex、Zoomなど、オンライン会議ソフトは製品リリースの初日から用意されている。
室内リノベーションや旅行プラン作り、高級ブランドのネットショップなど、空間を活用したプレゼンテーションを生かしたアプリのリリースも相次ぐ。医療や業務用CADなど3次元データを扱う機会が多いジャンルでも、初日から(まだ実験的な試みが多いものの)アプリケーションの対応が少しずつ進んでいる。
ゲームをはじめとするエンターテインメント用途が中心だった、メタ・プラットフォームズのMeta Quest 3などとは異なる市場開拓への可能性が垣間見える。Apple Vision Proはより幅広く、汎用的に使える独立したパーソナルコンピュータとして設計されている。
製造コストは常識外に高いと推測
もっとも、Meta Quest 3の7倍に相当する3499ドルからという価格や、600〜650グラムというヘッドセットの重さを考えれば、処理能力、表示能力、操作性などあらゆる面で妥協を許さない技術が投入されているのも当然、という受け止め方もある。
Apple Vision Proがもたらす斬新な体験は未来を垣間見せるものだが、その代償として製造コストは常識外に高いと推測されている。
業界アナリストはApple Vision Proの分解レポートなどを通じ、BOM(必要な総部品、材料)について推測を始めているが、ハードウェアコストの総額は1500〜1700ドル前後に達するとみられる。
販売価格3500ドルのテクノロジー製品の場合、BOMは1000〜1200ドル程度が適正な領域といえる。部品コストがそもそも高いうえに、その構造は極めて複雑で組み立てにくく、修理も困難だ。販売に際して数多くのフィッティング用部材を用意している点などを考えれば、この先数年の間、アップルが現在の製品から利益を上げるチャンスはないだろう。
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