アップルの「Vision Pro」発売は"時期尚早"なのか 未成熟、利益貢献は先でも今投入すべき理由

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部品コストで大きな割合を占めるのは、350ドル前後のマイクロOLEDパネル、160ドルのカメラアレイ、120ドルのレンズなど、ヘッドマウントディスプレイ固有のものが目立つ。類似するジャンルの製品が爆発的に広がらない限り、合理化を進めることも難しい。

本格的な普及に向けては本体重量で400グラム、BOMコストで800ドル以下(販売価格2000ドル)を目指す必要があるだろうが、1〜2年で簡単に到達できる数字ではない。

4〜5年先を見渡せば、段階を踏むことで目標を達成することはできるだろうが、アップルはそれまでの間、Apple Vision Proを取り巻くコミュニティのモチベーションを支え続けねばならない。

クックCEOが試作品体験で直感したこと

しかしアップルの成長戦略を考えるならば、腰を据えて長期的な投資を行うことは正しい判断になるだろう。空間コンピュータというジャンルが有望であることを開発者たちに知ってもらい、新しい価値を共創する環境を整えるには、かつてのスマートフォン以上に多くの時間が必要だと思うからだ。

純粋な情報ツールとして未成熟ということは、ほかならぬアップルが自覚していることだ。利益貢献するまでの道のりが厳しいことも同様だろう。

アメリカのエンターテインメント誌『バニティフェア』のインタビューでティム・クックCEOは、6〜8年前に初めてその構想段階の試作品を体験したとき、将来、アップルの製品ラインナップに組み込むべきものだと直感したと話している。

それはまだ現在の本社ビルがオープンする前、旧本社ビルの一角でのこと。当時は、その製品を世の中に投入するまでの道のりは予想できなかったが、「いずれ完成する」と確信を持って開発が続けられたという。

クックCEOが感じた新しい可能性。それは優れた技術に基づいた、ライフスタイルを変える可能性を持つ製品を作るだけではゴールとはいえない。市場が未形成のパーソナルコンピュータは、開発者やクリエイターが、新しい開発基盤で自身のアイデアを実現するためのコミュニティを醸成する必要がある。

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