「杉並区初の女性区長」撮った映画が共感集める訳 Xでも「やっと入れたの声」、異例のヒットが続く

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本作が多くの人々から共感を集めているのは、何をやっても政治は変わらないと無力感に陥っていた人たちに「希望を抱かせる」、「自分ごとになる」という視点だ。

ペヤンヌさんも、「私が住むアパートが都市計画道路の拡張でなくなるんです。それまで政治に関心なかったのが、個人的な生活の危機を感じて選挙に興味を抱いて、撮るようになりました」と語る。

そのため、選挙が持つ政治的な側面だけではなく、それにかかわる人々の生活も丁寧に映し出されている。

例えば本作の主人公である岸本さんが、朝食を食べたり、「私、早いの。いつも10分だから」と化粧をするシーンも撮影されている。

杉並区区長
岸本聡子さん宅。候補を降りるのではないかと危ぶまれた日。(提供・映画 ◯月◯日、区長になる女。製作委員会)

「岸本さんにドキュメンタリーを撮りたいといったときに、『私はNGないから。なんでも撮っていいよ』と言われました。泊まり込みで撮影できる日をもうけてほしいと言ったら、『ああ、いいよ』と出会って2週間ぐらいの日に。隣で寝ているのも撮ったりしたんですけど、それはさすがに(笑)。

岸本さんのNGはなかったですね。最初から。でも、選挙が間近になってピリピリして、さすがに撮りつづけているとストレスだろうという日は、ひとり街宣(住民有志が区内18の駅頭に候補者の代わりに立つ)している人たちを撮っていました」(ペヤンヌさん)

さまざまな人の視点を折り込む

岸本さんだけではなく、応援する個性的な人たちも入れ替わり立ち代わり登場する。岸本さんを応援し、カメラの前で積極的に発言する支持者の多くは女性たちだが、その一方で、選挙事務所を運営する際に寡黙に働き、陰で岸本さんを支える年配の男性の姿が印象に残る。

杉並区区長
選挙事務所の配線を買って出る支援者。インタビューを申し出ると「ああごめん。また今度なあ」と断られた。(提供・映画 ◯月◯日、区長になる女。製作委員会)

もう1つ印象に残るのは、ペヤンヌさん自身も自室でカメラに向かって語っている部分だ。

「選挙期間中は候補者のPRをYouTubeでアップするために撮っていたんですが、『ときどきの自分の気持ちを記録しておいたほうがいいですよ』とプロデューサーの松尾雅人さんに言われ、ひとり煮詰まっていたときに『いまだ』と思ってカメラを据えて撮ったんです。

もう言いたいことが溜まっていたみたいで、2時間くらい延々としゃべりつづけていた。猫を抱きながらしゃべっているのですが、猫はめっちゃイヤそうな顔をするんですよね(笑)」(ペヤンヌさん)

撮られる側・撮る側の、着飾らない素直な一面が映されることで、現場では何度も笑いが起きるコミカルな群像劇にもなっている。

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