壮絶ないじめも耐えた「光源氏の母」の一途な愛 夫と息子に愛された桐壺更衣が詠んだ歌

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当時のミカドの主たる責務は、政権内の秩序を保ち、子孫を絶やさないことだった。後宮で訪問を待ち構えている多くの妃や女房を無視して、1人の女性に夢中になった桐壺帝はそのどちらの義務もほったらかしにしてしまう。

パートナーが1人だと、懐妊する可能性もグッと下がるばかりか、それをとやかく批判するでしゃばりな政治家も出てくる。しかも、ミカドの子どもを授かるというドリームを抱いて、大切に育てられた姫たちは、「なんでアイツなの? なんで私じゃないの? ズルイっ!」と嫉妬がとまらないわけだ。この時代は、すぐみんな生き霊を飛ばしたりするから、まさに危機的状況。

日本一の男に愛されているにもかかわらず、孤立無援となる桐壺更衣。プレッシャーに押しつぶされた彼女は病気で退出して、瞬く間に短い生涯を閉じる。最愛の人を亡くしたミカドは泣き崩れ、なおも他の女には目もくれない。壮大な物語はこうした小さな、切ない恋から始まっている。

桐壺更衣が辿る悲運があまりにリアル

改めて言うまでもないが、『源氏物語』はれっきとした作り話だ。ストーリーは作者の紫式部が生きた時代より、100年ほど前の「いづれの御時」に設定され、執筆当時では「更衣」、つまり衣替えに奉仕する女官の役職は、すでになくなっていたらしい。

ところで、完全に想像上の話なのに、桐壺更衣が辿る悲運はとてもリアルに描かれている。それもそのはず。似たようなことが、紫式部が生きていた時代に本当にあったからだ。

藤原道隆(道長の兄)の娘として生まれた藤原定子は、女御から中宮になって、しっかりと一条天皇の愛を勝ち取る。仲良しの2人の間に子どももできて、めでたしめでたし。しかし、その後からが本番。

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