壮絶ないじめも耐えた「光源氏の母」の一途な愛 夫と息子に愛された桐壺更衣が詠んだ歌
『源氏物語』が書かれた順番は正確にはわからないので、「桐壺」の帖がリリースされたタイミングは不明だが、紫式部はそれを書いたときに、一か八かの大勝負に出た。主家が反対する可能性があろうとも、誰もがもっとも読みたかった、永遠かつ唯一無二の愛の物語を綴ることにしたのだ。
「誰かのクビが飛ぶんじゃない、これ!?」とビクビクしながら、錚々たる面々の前でその部分を朗読する羽目になった女房の身にもなってください。更衣の話が終わって、彰子が住まう藤壺の中の空気が一瞬凍りついたのかな……。
もしかすると、一条天皇は袖を濡らしたのかもしれない。緊張感をはらんだ局の様子を妄想しながら、やはり都人にとって、『源氏物語』はものすごくスリリングなエンタメだった、と改めて実感する。
「生きたい」という更衣の心の叫び
死が近づいていると察知した桐壺更衣は「限りとて別るゝ道の悲しきに いかまほしきは命なりけり」という和歌を詠む。それは、「私の命はこれまでだ。愛するあなたと別れて、死出の道を歩かなければなりません。でも、今私が歩んで行きたいのは、あなたと一緒に生きていく道なのです」というような意味合いになっている。「いかまほしき」の「いく」は「行く」と「生く」の掛詞だ。死出の悲しい旅が目の前にあるが、その歌には「生きたい」という更衣の心の叫びが詠まれている。
桐壺更衣は物語の幕が上がるや、確かにすぐに死んでしまう。しかし、54帖にも及ぶ『源氏物語』は、彼女(それとも定子様?)をはじめとする女たちの強い意志が注ぎ込まれ、しぶとく生きようと訴え続けているのだ。
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