今度はスープをかけられた「モナリザ」受難の歴史 過去にはケーキやカップを投げられたことも

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ダ・ヴィンチはフィレンツェの工房で育ち、仲間の職人たちの中で断トツの才能を発揮し、輪郭なしの自然な立体感と空気遠近法で当時としては対象物の立体表現や空間表現、肌を描いて右に出る者はいなかった。当時の彼の立場は職人だが、しばしば、依頼された内容を独自に変え、さらに納期を守らないことでも有名だった。ただダ・ヴィンチの作品を所有することは当時の聖職者、王侯貴族の権力者、大商人にとっての名誉だった。

ダ・ヴィンチの絵が後世に与えた影響

中世の人物画の表情は無機質、無表情だったが、ダ・ヴィンチの人物画、例えば聖母子像、最後の晩餐の弟子たちには、微妙な感情表現が見られる。『モナリザ』の微妙な微笑は500年以上、人々を魅了してきた。『モナリザ』の人物の肌に筆跡が見られないこと、背景にある風景の奥行、その完成度は、以降の人物画、風景画に大きな影響を与えた。

そうした観察眼は、昨今のビジネスツールとしての「アート思考」にもつながっている。

『モナリザ』への攻撃は、多くの美術関係者や美術愛好家に衝撃を与えた。なぜなら、今でも『モナリザ』は芸術の最高峰と考えられているからだ。その破壊を肯定する社会運動家たちによって襲撃された事実は決して軽くない。

フランスで1月に就任したばかりのラシダ・ダティ文化相は、『モナリザ』が標的にされることを正当化できる「大義」はないと述べた。

安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)

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あべ まさのぶ / Masanobu Abe

パリを拠点にする国際ジャーナリスト。取材国は30か国を超える。日本で編集者、記者を経て渡仏。創立時の仏レンヌ大学大学院日仏経営センター顧問・講師。レンヌ国際ビジネススクールの講師を長年務め、異文化理解を講じる。日産、NECなど日系200社以上でグローバル人材育成を担当。

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