「現状維持」という意識が会社をダメにする 日立製作所相談役・川村隆氏に聞く(後編)

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前・日立製作所会長の川村隆氏
2015年5月、日立製作所は同3月期決算で過去最高の営業利益をたたき出した。近年、日立グループが標榜する、都市開発や交通などのインフラをシステムごと請け負う「社会イノベーション事業」が、好調の要因だ。
ただ、日立はこれまでずっと順風満帆だったわけではない。1990年代後半から複数回、最終赤字に転落。経営不振に長く苦しんできた。その日立グループを、ここまで復活させた立役者がいる。前・日立製作所会長の川村隆氏(現・日立製作所相談役)である。
川村氏は、日立製作所が7873億円の最終赤字を出した直後の2009年、執行役会長兼社長に就任し、日立再生を陣頭指揮した人物。赤字事業からの撤退といった大ナタも振るったが、「社会イノベーション事業」の拡大という具体的な方向性を示し、“沈みかけた巨艦”を再浮上へ導いた。
そんなタフな試練をくぐり抜ける中、川村氏には、自身の胸に抱いていた、ある「考え方」があるという。前回記事に続き、“沈みかけた船”がひしめく日本経済界で、今も奮闘し続けているビジネスマンへのメッセージを伺った。

前編:日立をV字回復させた「ラストマン」魂の言葉

「部分最適」と「全体最適」

――日本の企業がこれから考えていくべきこととは。

自分のいる組織の「継続」だけを目的にしてはダメです。だから「ラストマン」(前編記事参照)として上位にいる人がきちんと決断することが大切です。「部分最適」「全体最適」という言葉がありますが、やはり会社の「全体最適」を見られる人が決断をするほうがいいわけです。

『ザ・ラストマン 日立グループのV字回復を導いた「やり抜く力」』川村隆(KADOKAWA/角川書店)「どん底」から「過去最高益」、そして「世界」へ――日立グループの復活を支えたのは、一人ひとりが持つ「最終責任者=ラストマン」の覚悟だった。決断、実行、撤退…一つひとつの行動にきちんと、しかし楽観的に責任を持てば、より楽しく、成果を出せる。“日立・復活”の流れに触れながら展開される、ビジネスマンへの具体的アドバイス。

ただ実際は、「部分最適」「全体最適」の判断は、なかなか難しいものです。われわれもこの言葉を随分使いながら改革を進めましたが、「全体最適のために……」と言ってみたところで、たとえば部門を縮小される側からすれば、「たまったものではない」と感じるものです。やはり「組織の継続」が大事だと思っている人が多いわけですから。

会社の構造改革をするときは、「自分たちの扱っている製品は、大先輩から代々、続けてきたものだ」とか、「○○さんが創造したもので、日本で初めて作ったものなんだ」「これは50年前に苦労して実現させたもので、それを潰すのはけしからん」という考え方も出てきます。

それを説得するときに、「あなたのところを残そうとすると、つまり部分最適をやると、日立全体が潰れます。そうすると32万人が路頭に迷うことになってしまいます」というように、全体最適の話で「押し通していった」という面が少しあるかもしません。

――「全体最適」の考え方が薄くなると、どうなってしまうのでしょうか。

たとえば、あるフィルム会社は業績が悪くなった一方、富士フイルムは好調です。業績の差ができた原因は簡単には割り切れませんが、「フィルム」や「フィルムのカメラ」という昔の製品に固執したかどうかが大きかったように思います。

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