おもちゃ箱をひっくり返したような予算案の内実 インフレ下「名目増・実質減」に財務省は成功

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他方、歳入面をみよう。

一般会計の税収は69兆6080億円と、2023年度当初予算より1680億円とわずかに増えると見込んでいる。これには、岸田首相がこだわった1人あたり所得税3万円、個人住民税1万円の定額減税で所得税収が2兆3020億円減るという影響も織り込まれている。

ただ、対前年度当初予算比で、法人税が2兆4440億円、消費税が8310億円増えるなど、所得税減税がなければ、税収は過去最高を記録して国債発行をもっと抑制できたのだろう。

2024年度一般会計における国債発行は34兆9490億円と、対前年度当初予算比で6740億円減らすことはできた。とはいえ、一般歳出総額に比した国債発行額(公債金収入)の比率である公債依存度は、2023年度当初予算の31.1%から2024年度予算政府案は31.2%と微増している。

好調な税収に支えられ、あれほどの歳出増がありながら、一般会計の基礎的財政収支の赤字は、2023年度当初予算の10兆7613億円から8兆3163億円へと減った。所得税減税がなければ、一般会計の基礎的財政収支赤字は6兆0143億円まで減っていたとみられる。

2025年度は、国と地方の基礎的財政収支黒字化の目標年次である。地方は基礎的財政収支が黒字である。2025年度こそ、国と地方の基礎的財政収支を黒字化して目標を達成すべきである。

財政で物価上昇をあおることは避けられた

確かに、2024年度は歳出増が目立つ予算政府案となった。これをどう見るか。

これまではデフレ下での予算編成だった。物価はほぼ上がらないという中で、名目額の増減が意味をなしていた。

それが今や、物価上昇下の予算編成である。12月21日に閣議了解された政府経済見通しでは、2024年度の消費者物価上昇率は2.5%である。歳出が2.5%を超えて増えれば、物価変動部分を取り除いた実質ベースでも増えたことになる。

しかし、前述のように、一般会計総額の名目ベースの増加率は、防衛力強化資金の影響を除去すると0.96%の増加である。これを実質ベースに直すと、変化率はマイナス1.54%である。実質ベースでは、むしろ「歳出減」が実現したことになる。

名目額では増やして、予算要求側に花を持たせつつ、実質ベースでは歳出の増加率をマイナスとして財政健全化の実を取る。これにより、財政政策で物価上昇をあおらないようにもできる。物価上昇下の予算編成は、こうした工夫が必要だ。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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