もうひとつ、高視聴率番組になった今となっては信じられないが、全国ネットで放映することすらなかなか認められなかった。ネットワークのメインであるテレビ朝日ではなく、在阪のABCテレビからの全国ネット番組としての放映になっているのもそのためだ。最終的に成功をおさめた回顧録として読むには面白いが、リアルタイムではどれだけ大変なことだったろうか。
いざ番組が決定してからも苦労は絶えなかった。これも今となっては信じられないが、前例のない大会だけに、当の漫才師さんたちの反応もいまひとつだった。本当に1000万円も賞金が出るのかということさえいぶかられた。伝統ある大阪漫才大賞の賞金が10万円だったのだから、それも当然だろう。ABC放送と並んで吉本興業がスポンサーであることから、優勝は吉本に決まっているのだろうと決めつけるライバル会社・松竹芸能の芸人さんもいた。参加費がもったいないという声まであがったというから、すごい。
物事を始めるというのはどれだけ難しいことなのか。こんなエピソードがすべて実名で書かれているのもすごい。
公平で公明正大な審査方法をどうするか、審査員を誰にするか、セットはどうするか、などなど、いざ本番となると、細かなツメも大変だった。忙しすぎたせいだろうが、台本の表紙の色をオートバックスのイメージカラーであるオレンジ色ではなく、なんと、ライバル社の黄色にしてしまうという大チョンボまでおかしてしまう。大恩人である住野社長には表紙を破って渡したというから笑うしかない。
漫才の神様に「漫才師への愛」が通じた
そして第1回。予選から中川家の優勝にいたるまでのストーリーは、まるで手に汗にぎる大活劇だ。多くの漫才師たちが、信じられないほどの緊張感の中、いかに真剣に、そして猛烈な闘争心を持って戦っていたのか、それは読んでのお楽しみ。
巷間、一部の例外を除き、売れている漫才コンビは仲が悪いと言われることが多い。しかし谷さんの考えは違う。
こういった漫才師さんたちへの愛が漫才の神様に通じたのではないか。そんな気持ちで、この本を読み終えた。
「M-1はじめました。」が10倍面白くなる
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