なぜシャンパンタワーにドンペリが選ばれるのか 日本に欠けているラグジュアリーの視点と可能性
専門家が最高の状態で提供してくれるヴィンテージの芳香を鼻から吸うと、そのかぐわしさが鼻腔の奥からそのまま眼の後ろのあたりに伝わって、そこで何かむずがゆい快感が脳内に本当に広がったのである。性的能力が衰えた老人が、代わりに美食に快感を求めるという理由が実際に身体でよくわかった。
なぜシャンパンタワーにドンペリが選ばれるのか
そのときに飲んだのと同じヴィンテージのシャンパンが、歌舞伎町のホストクラブでシャンパンタワーなどに使われると、それこそ1棟(?)で何百万円にもなるという。
筆者はホストクラブに勤めた経験も、客として訪問した経験もまだないので、映像で見るだけだが、考えるまでもなく、こんな乱暴な注ぎ方と飲み方では、せっかくの芳香成分を嗅ぐどころではない。そもそも注ぐ以前の保管状態も良いとは思えない。
つまり、このタワーに使われるときのドン・ペリニヨン(ドンペリ)は、「こんな高いシャンパンをホストのために注文できる自分は超太客である」というメッセージを目撃者に伝えるための記号として購買されたということである。
このとき注意すべきは、ヴィンテージのドンペリが高価な記号として成り立つためには、仮にビンの中身の味がまったく同じであっても、名前がドンペリであり、しかも、その名前が消費される界隈でよく知られていないと成り立たない、ということである。
シャンパーニュ地方にはたくさんの葡萄畑があって、熟練した農家と醸造技師たちが腕を競って優れたシャンパンをつくっている。気候風土がほぼ同じ地域で、まさかドン・ペリニヨンだけがまったく独自の美味を実現できているはずはない。
年ごとの出来不出来も考えれば、日本ではさほど知られていなくても、ドン・ペリニヨンに遜色ない味のシャンパンが他にないと考えるのは不自然である。
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