ネガティブな「後悔」の感情が人間に必要な理由 私たちの成長を促す"生産的な後悔"とは

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一方、感情はもっと複雑だ。感情には、どのような役割があるのか。とりわけ、後悔のように不快な感情は、どんな役割を担っているのか。思考が行動のためにあるとすれば、感情はなんのためにあるのか。

感情は無視すべきもの?

ひとつの考え方は、「感情は無視すべきものである」というものだ。感情はさほど重要ではなく、単に邪魔なだけで、本当に大切なことに神経を集中させる妨げにしかならない、というのである。感情を払いのけ、あるいは忘れてしまうのがいちばんだと、こうした考え方を信奉する人たちは主張する。理性に意識を集中させ、感情を無視すれば、万事うまくいくというわけだ。

しかし、残念ながら、ネガティブな感情をいわば地下室に押し込んだとしても、いずれは地下室の扉を開けて、そこに隠したものと向き合わなくてはならない日が来る。

ある心理セラピストいわく、感情にふたをすると、「心臓病や消化器系の不調、頭痛、不眠、自己免疫不全などの肉体的問題が生じかねない」という。ネガティブな感情を地中に埋めたところで、それが消えてなくなるわけではない。むしろ、その感情が増幅して染み出し、人生という土壌を汚染する。

ネガティブな感情を徹底して軽んじるのは、手堅い戦略とも言えない。そのような態度を取れば、ヴォルテールの小説『カンディード』に登場する哲学者パングロスのようになってしまう。パングロスは、立て続けに災難に見舞われても、こう言ってのける。「ありうる世界の中で最善の世界において、すべては最善である」

ネガティブな感情を最小化するためのテクニックにも意味はある。私たちには癒しが必要なときがあり、この種の手法を用いることにより、癒しが得られる場合もある。

けれども、癒しを求めることにより、誤った安心感をいだけば、厳しい現実を修正する手立てを失いかねない。その結果として、悪循環に陥り、意思決定の質が悪化し、成長が妨げられる可能性もある。

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